バックモニター
車を買い替えた。これまでは中古車だったが、せっかくなので新車にした。色々機能が付いていてわくわくしていたが、中でも一番ありがたかったのがバックモニターだ。バックが下手な私は何度も前の車をぶつけており、まっすぐ駐車線の中に入れられないことも多かった。でも、今はモニターに後ろの様子が映し出されるので、格段に楽になった。そんなある日。ある事件を境に、私はバックモニターを使わなくなった。
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深夜。仕事を終えてへとへとで家に帰った。辺りは暗く、出歩いている人はいない。車を駐車するために駐車場を少し過ぎ、バックで駐車を始める。いつものようにバックモニターを頼りに進めるが。
「え!?」
すぐにブレーキを踏み、車を止める。バックモニターに、人が映っているのだ。モニター越しに、男性がこちらをのぞき込んでいる、その異様な光景に恐怖を覚え始める。普通、危ないと思ってすぐに避けるものじゃないだろうか。私は怖かったが、車を降り、後部を確認する。そこには、誰もいなかった。
「……き、気のせいだよね」
見間違いだと自分に言い聞かせながら車に戻り、バックし始める。モニターに再び後部の様子が映し出され……
「!!」
再び、男性がのぞき込んでくる。きちんと駐車をしないまま、私は車を停め、家に逃げる。
「な、何あれ……!」
あの男性は何者なんだろう。バックモニターにしか映らないだけでも異様だが、普通に考えたら覗き込むように映るには体をかがめて、意識しないと映り込むことはない。つまり、あの男性はわざと映り込んでいたのだ。そう考えると怖くなり、私はそのまま朝まで眠れずにいた。
翌朝。明るくなって人の気配がし始めた頃。私は駐車し直すために車に乗り込む。震える手でハンドルを握り、バック駐車を始める。モニターに映し出されたのは……車の後部の様子のみ。そこに男性はいない。
「はぁ……」
何事もなく、車を停める。きっと気のせいなんだ。それか、もしかしたらレンズに汚れがついていたのかも。そうだ、そうに違いない。明るさからか気が大きくなった私は車のモニターレンズを確認するため、後ろに回る。そこには。
「い……嫌ぁぁぁぁぁ!!」
車の車体に、手形の汚れが、二つ付いていた。ちょうど、モニターの両側に一つずつ。まるで、覗き込んでいる時に触れていたかのように。
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それから、すぐに私はバックモニターを取り外してもらった。あの男性が本当にいたのかどうかはどうでもいい。二度と、私が使うことはないだろう。
完




