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ミラクル★フォーチュン  作者: よっしー
とも子さんと山川
8/19

そんな山川だから僕と特に深い話しはしなくて、それをわざわざ占いをやっていることを小耳にはさんでいるだけの、辞めていった元同期のところへやって来たというのは、それだけでもうすごいことなのだ。でも山川からしてみたら、僕のような世間からずれている人の方が話しやすかったのかもしれない。僕は会社にいるときに坂本さんと出会って、すぐにそっちの世界にのめり込んでいったので、自然と会社の人とは疎遠になった。


もちろん山川も例外ではなく、あれだけ一緒に行っていたカラオケも行かなくなり、普段話すこともなくなってきて、僕がそろそろ会社を辞めようかと考えているころには風の噂で、「あいつは変わっちまった」と山川が言っているという話しを聞き、カラオケしているころを懐かしく思ったものだ。そのとき僕は山川にとってすでに変人だったのだが、同時に占いなんていう不可解なことやっている、不気味なんだがどこかぶっ飛んでいる人にもなっていて、自分がわけ分からなくなったときにふと僕の顔が浮かんだのかもしれない。ぶっ飛んだこいつなら、会社でサラリーマンやっている人には分からないことも教えてくれるんじゃないか、と。


「それで、おれはこれからどうすりゃいいんだ?」


「てゆうか、お前はどうしたいの?山川は目標をしっかり定めて、それに向けて計画を立てて着実に実行していく方が運気もエネルギーも上がって来るから、その向かっていく先を明確にする方がいいんじゃない?今は無計画に何かするなって言ってるよ」


僕の問いかけに悩む山川は、もう僕の知らない山川だった。普通に付き合っているだけでは分からないことも、こうしてぶっ飛んでみれば見えてくることもある、ということなのだろう。


山川の守護霊に聞いてみると、山川の守護霊はすごく世話焼きの心配性で、しばしば山川を守って来たからそれが山川を甘やかす結果になっていたので、ちょっと守る頻度を下げたから今回のようになったそうだ。それで僕も山川には厳しいようだがあえてヒントみたいなものは与えず、辛抱強く山川から何かが出てくるのを待っていると、突然山川のオーラがパッと晴れた。


「なあタケル」「なんだ?」「笑うなよ」「笑わねーよ」「やっぱりおれ、まずは彼女が欲しいかもしれん」そう言った山川の顔は何だか清々しかった。


「いいんじゃねーか。じゃあ、彼女を作るっていうので見てみるよ」それで僕は、あまり経験が無かった恋愛関係の占いも山川のために必死にやった。そのときミチルの雰囲気は心なしか柔らかい感じになっているようだった。あるいは僕の気のせいか。


先が見えて、帰りがけに興奮の絶頂だった山川は、「ちょっとルナちゃんに会わせてくれよ」と調子に乗って来たので、「お前な、ルナちゃんルナちゃん言ってるけど、ルナはお前とタメだぞ」と言ってやったら逆にもっと盛り上がって興奮し出したので、「犯罪起こさないために、金払って正面から会って来い」と言って見送った。でも山川は知り合いの前でははっちゃけるが、元々臆病な性格だからルナのことは口だけで、実際に占いしてもらいには行かないだろう。


山川以降はお客さんはまばらになってしまったが、僕は久しぶりに充実した気分で夜の休憩を迎えた。その休憩はだいたい六時から七時の一時間で、いつもはチェーン店の牛丼やうどんを食べに行くのだが、気分が良かったのでちょっと贅沢でもしようと街に繰り出した。


「ミラクル★フォーチュン」は新宿駅が最寄なので、もちろん夕食を食べるところには困らない。西口側の西新宿一丁目辺りだから飲み屋が目立つのだが、ちょっと歩けばリーズナブルなイタリアンや中華、日本食などが食べられるし、チェーン店も充実しているので本当に食べるところには困らないのだけれど、ちょっと贅沢をするという変なプレッシャーのせいかお店をなかなか決められず、僕は何軒か見て回ったあとに結局いつものチカラめしにしてしまった。


僕は券売機の前でいつものチーズたっぷり牛丼にしようと小銭を取り出していると、せっかく良い気分で夜の休憩に入ったのに、その探し回った分の時間を無駄にしたという思いが強く湧いて来た。普段ならそこまで強いのは湧いて来なかったに違いなく、とも子さんから山川までの充実した時間が、僕にちょっと贅沢をしようと思わせたのが直接の原因なのだろう。


でもそう考えてみると、そういえば西新宿一丁目辺りの飲食店でちょっと贅沢なものを食べようと思ったことがないような気がした。もちろんそうするのに相応しい飲食店は沢山あるのだけれど、ちょっと贅沢なものを食べるといった場合に僕が思い付くのは新宿以外の場所で、そもそも西新宿一丁目をそういうものを食べるという目で眺めたことがなかったのかもしれない。ちょっと贅沢したい飲食店の情報が僕の頭にあれば、絶対に迷わず入れたはずだ。


そうすると、僕はこれまでの半年間、夜の休憩で、というより西新宿一丁目でちょっと贅沢なものを食べたいと思って飲食店を探したことが全くなかったのだろうか。あの充実した気分と同じくらいのものを過去に感じたとすれば僕はたぶん忘れないし、そのときにちょっと贅沢なものを食べようと思うくらいは過去にしたはずだから、たぶん今回みたいに探そうとして見つけられなかったという過ちを犯し、その過ちの記憶が充実した気分で上書きされてしまったに違いない。


そう思って僕はチーズたっぷり牛丼を食べていると、嫌な気分でもやっぱりチーズたっぷり牛丼は美味しいから、もしかすると僕はそれがすでにちょっと贅沢だと思っていたので、探しても上手く見つけられなかったんじゃないかと思ったのだけれど、そもそも「ちょっと」という形容詞が探すのを難しくさせていたのかもしれない。

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