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とも子さんをブースへ案内すると、良いオーラになるように念を込めておいた飴を舐めてもらい、初めての人には名前と年齢を紙に書いてもらうのだが、とも子さんは常連なのですぐに占いを始めた。
「それで、今日はどうしました?」「あの、絵本のことなんですけど、」と開口一番にとも子さんが言ったのは、とも子さんには絵本作家になるという夢があって、今は派遣として働きながら絵本の方を頑張っているからだ。
しかしとも子さんはそのあと口をつぐんでしまい、僕は無理に話しを促すようなことはせず静かに待っていると、とも子さんは突然泣き出した。以前も泣いたことはあったがまさか始まってすぐ泣くとは全く予想できなかったので、動揺したけれどとも子さんの負のオーラは幾分和らいだようだった。するとミチルも大丈夫、などと言ってきたので、僕はとも子さんが落ち着くのを待って話し始めた。
「とも子さんは元々高いエネルギーの世界が合っている人で、会社に勤めたり結婚して家庭を持ったりするのは向いてないんですね。だからその高いエネルギーの感性を活かして、絵本とか書いたりするのはすごくとも子さんに合ってるんですけど、今はとても動きにくい時期みたいです。」
ミチルが試されてる、などと言った。
「自分の絵本を広めようとしても邪魔が入ったり、新しい絵本を書こうとしてもなかなか上手く行かなかったりします。それこそ今の仕事や近くにいる人たちが邪魔してきます。でもそれって、実はとも子さんがこれから絵本を本当に続けていけるかどうかを試してるんですよ。とも子さんの絵本に対する気持ちを」
「私の気持ちを?」ととも子さんは小さな声で言った。するとミチルも成長、と言った。
「はい。とも子さんのエネルギーが高い分、周りの圧力も大きいかもしれません。でもその苦しい時期を乗り越えたとき、とも子さんは大きく成長して、絵本だけじゃなく色んなことが上手く回り始めます。自分を苦しめるためだけに集まって来たんじゃんないかっていう周りの人たちは遠ざかって、とも子さんを応援してくれる人たちがどんどん集まって来ます。とも子さんの情熱に引き寄せられるんですよ」
僕はふうと一息ついて、腹に力を入れた。
「本当に成功している人は、みんなこういう時期が必要なんですね。成功者が必ず通る道です。だから、今とも子さんはちょうど一番苦しい時期にいるんですが、その苦しさはとも子さんにとって必要な苦しさなんですね」
僕はこういった内容の話しをする機会がよくあるのだが、なぜかいつも僕の方が感極まってきて、本当は良くないのだけれど自分の占いに多少影響が出てしまう。それで僕は本気で占いに向いてないのかなと思ったことがあるのだけれど、坂本さんに相談してもミチルに聞いてみてもそんなの気にするなと言われてもう気にしないことにした。でもやっぱり占い中に占い師が泣くのはおかしいから、泣きそうなときは一呼吸置いて丹田に力を入れるようにしている。
しばらく話すととも子さんはちょっと落ち着いて来たようで、「私の絵本であんなにけちょんけちょんに言われたのは初めてですよ。確かに私が会社の人たちを定時後に集めて絵本を読み聞かせたから、それにちょっと不満を持ってる人はいたかもしれませんけど、それにしてもあんまりですよ。酷すぎます。そのせいでしばらく何にも手に付かなかったんですから。でもそれが私に必要なことだって分かって、安心しました」
と自分のことを話し始めたのだが、ミチルがすぐに、まだまだ長い、などと言ってくるので僕は仕方なく、「それは良かったです。オーラもさっきより良くなりましたね。苦しい時期はもう少し続くみたいですけど、それを忘れずにいればきっと道は開けますよ」と遠回しに釘を打っておいた。
ミチルは厳しいのか真面目なのか分からないが、普段はポジティブとネガティブの中間くらいを狙ってきて、お客さんがネガからポジに変わる方は良いのだけれど、僕としてはそこでもっとポジを膨らませたいなと思っていると、だいたいミチルがネガの方に引っ張ってしまう。僕はあまり厳しい感じになるのが好きではないので、そこを理解したうえであえて厳しめの発言をしてくれているのかもしれないけれど、その姿勢は占いをしていないときも崩れてないような気がするのでたぶんミチルの性格だ。
でもそれでいてミチルとはこうして上手く付き合ってきたので、僕は決してミチルが苦手なわけではない。というか、元々色んな意味で互いに補い合うもの同士を神様がくっつけているのかもしれない。僕に選ぶ権利はないのであんまり合わないお師匠さんだと可哀想だし、かといって似た者同士だと逆に慣れ合いで良くないだろうから、僕に程よく合った人を探していった結果あんな感じの性格のミチルに行き着いたのではないか。
実際ミチルのおかげで僕の占いがかちっと締まったりしているので、それが僕の成長につながっているのは間違いなく、たぶんこういうものを神様は期待しているに違いない。でもそうは言っても、実はミチルが僕を気に入ったから選んだんじゃないか、という自惚れが僕の中には少しあって、いつかミチルにそのことを聞いてみようと思う。




