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ミラクル★フォーチュン  作者: よっしー
とも子さんと山川
2/19

全てねー、と思いながら僕はすぐ目の前に生えている巨木を見た。名前の知らないその木は、焦げ茶色でよく見るとゴツゴツした幹に緑のコケをびっしり蓄えていて、足元にはまるで海の荒波みたいな根っこの付け根部分が互いに重なり合って、今にも地中へもぐってしまいそうにうねっていたのだが、その木がびくともせずそこに留まっている力強さもまた同時に与えているようだった。


少し上に目をやると、太い胴体に不釣り合いなひょろっとした枝が生えていて、何だか小さな子供が母の元で必死に成長しようとしているみたいで可愛かったのだが、そんな低い場所からもっと上に生えている太い枝と同じ太さのものが生えるなんて全然想像できなかったので、もしかするとそのひょろっとした枝はすでにいい大人くらいだったのかもしれない。


さらに上を見ると、あるところからぶわっと枝やそれに生える葉が広がり、ちょうどその辺りから隣の木々のものと触れ合い始めたりするので、鮮やかな緑や茶だった色が頂上に近づくにつれて徐々に明るさを失っていくのだけれど、上空からさんさんと降り注ぐ日光は葉にじりじりと侵入し、比較的奥の方までその影響を及ぼしていたので、風でゆらゆらと揺れる幾重にも重なったそれは、明るいのに暗い、という奇妙な印象を残していた。その印象が空間として僕に迫って来たのかもしれないが、その空間とそれ以外の境目は僕にはよく分からなかった。元々境目なんてあったのだろうか。


それで「そういえばさ、あっちの世界ってどんなところなの?」とまた懲りずに質問をしてみると、今度は何も答えてくれなかったので僕も何だか興が覚めて来て、それにしばらく顎をいっぱいに引き上げて上を見ていたので首が痛くなったし、周りにも子連れの親や休憩をしに来た警備員みたいな人たちが増えて来たので僕の呟きを聞かれる可能性もあり、とりあえずベンチから立ち上がってアパートの部屋に向かった。


その途中、公園を出てアパートの階段を登りきったところで、ふと何の気なしに公園の方へ振り返ってみると、よく考えれば当たり前の話しなのだが、巨木たちの樹冠が公園の周囲に植えられた小さな木々の向こう側、やや目線を上に傾けたところに見えて、そこで初めてあの新築マンションほど巨木たちが高くはないことを自覚したのだった。


あまり朝から占いの気分な人は少ないだろうという勝手な予想と、単純に僕が朝苦手だという理由で自然と営業時間は午後一から最終までになっていて、いつも午前中に宮ノ浦公園でぼーっとしたあとに、占い屋「ミラクル★フォーチュン」へ行くことにしている。


僕は元々綺麗な散歩道を散歩したり、自然の豊かな公園で優雅な時間を過ごしたりする人ではないのだが、それではなぜ仕事の前なんかに公園のベンチに座っているかというと、こっちの世界の師匠である坂本さんに「もっと自然に触れてみたら?」という有り難いアドバイスをもらったからだ。


坂本さんは飛び抜けた霊感の持ち主で、すでに七十を超える高齢なのだが未だに熱狂的なリピーターが沢山いるスーパーおじいちゃんなので、最近では「いやー、辞めるに辞めれないよー」というのが口癖になっているのだけれど、本人は至って元気そうだからまだまだ現役で頑張るのだろう。実は僕に占い師という仕事を勧めてくれたのも坂本さんなので、そんな恩師の背中を見て占いを続けられることは本当に幸せなことだと思う。


「ミラクル★フォーチュン」も多少坂本さんの息がかかった占い屋で、本人は別に作ろうと思ったわけではないと言うのだが、気付いたときには霊感の人が集まる坂本コミュニティーができていて、それに所属している占い師が「ミラクル★フォーチュン」には何人かいる。もちろん僕もその中の一人だ。


ただ他の占い師の人たちは坂本コミュニティー所属の占い師のことを何だか変人扱いしているようで、僕は正直どこが変人なのか分からないのだけれど、変人は自分が変人なのに気付かないと言うから逆に変人であることを自ら認めている気もしなくもない。ミチルに聞いてもノーコメントだった。


でも坂本さんが変人というか超人であることは満場一致でその通りで、僕が特に驚いたのは、何となく占いに行き詰っているといつも坂本さんから連絡が来て、別に悩み相談をするわけではないのだがその会話で先が開けてくるのだ。あのアドバイスをもらったのもこんなふうに坂本さんから連絡が来たときで、効果が絶大だったのは言うまでもない。

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