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ミラクル★フォーチュン  作者: よっしー
散策ツアー
16/19

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参加者の中にルナと山川の姿は見えなかったので、僕はしばらく一人で公園の自然をぼーっと眺めた。宮ノ浦公園と比べると木々は大きく迫力があるようで、それは公園の広さや周囲の環境のせいもあるだろうが木の直径を比較してもやはり大きかったのだけれど、大きさ以上に興味を持ったのは木や葉の形だった。


あのマツみたいな木は太い幹が真っすぐ地面から生えていて、それがそのままてっぺんまで主幹として伸びるのかと思ったら、中盤で巨大な鉄球に進路を妨害されたように反り返り、そのときに主幹は四方へ三、四本に分かれて伸び始めた。分かれたそれらはまるで各々が主幹であるかのようにムクムクと真っ直ぐ成長したので、マツみたいな木の上半分は他のと比べて太くどっしりとした印象だった。


しかしその木にピタッと張り付くぐらいに近づいて、そこでしばらく下から眺めていると、反り返った背中側にはどの幹も枝を伸ばしておらず、その背中合わせの何もない不思議な空間はずーっと上まで続いて、最後の日光が降り注ぐてっぺん部分でようやく枝葉によって蓋をされているみたいだった。


その空間を作ってしまった必然として、中盤で分かれた準主幹たちは枝を背中以外の方向にしか伸ばせず、また日光の吸収効率もおそらく影響し、葉を付ける枝どおしは真下から見上げるとそれらのなす角がだいたい九十度から百八十度になっている。


そのためか、真下からの角度ではちょうど反り返った準主幹たちが上体反らしをして両手を広げた人間っぽく見えるのだが、もちろん顔は上へ長く伸びた幹なので、まさに木の精霊が主幹から飛び出している、と言うのが適切な形容だろうか。しかし真下からよく見てみると、彼らは両手を掲げて上空にいる何かに思いを馳せているような気もするので、神様に祈りでも捧げているのかもしれない。


準主幹たちの反り返った感じは不思議で面白く、そもそも直径五、六十センチはありそうな幹たちが主幹に対してほぼ九十度で横に飛び出し、直後にグググと体を極端に捻って、上方へ再び真っ直ぐ伸びていく形というのはなかなか珍しいのではないか。傍から見ていると何だかその木も苦しそうに見えるし、他のよりは背が低いようだ。素人の考えだが、そんな変な形になってしまうのは普通何か物理的に邪魔が入ってしまう場合に限られるような気もするが、それでは一体何が邪魔したのだろう。


実際に巨大な鉄球が置いてあるわけではないし、もちろん周囲には邪魔になりそうなものは何もない。僕は突然その分岐を上から眺めてみたい衝動に駆られたが、それもできないので想像力に頼らざるを得ないけれど、やはり現実的なところでは別の場所から移植された可能性が高いだろう。つまり井の頭恩賜公園で反り返ったわけではないので、そこで僕の想像力は及ばなくなった。


枝なのか茎なのかそれとも別の名称があるのか分からないが、とにかくその木は細長い形の葉をらせん状っぽく付けたものを何本も伸ばして光合成を行っているようで、それらの多くは元気に上方へ向かって伸びているのだが、一部は自重に負けたのかダラリと垂れている。垂れているのはおそらく年長者で、いずれは伸びている全てが垂れ下がっても成長を続け、ついには地面に到達するかのように感じられるが実際そんなことはなく、新陳代謝が行われるのだろう。


とすると細長い形の葉だけが落ちるのではなく、それらがらせん状っぽくまとまった一本一本が落ちると思われるわけだが、落ちていく瞬間を見ることは僕の人生でおそらくない、としか思えない。桜や紅葉などではまあ落ちるのは見たことあるが、あの長い一本は全然落ちて来る気配がなかった。本当にポトンとあれが落ちて来るのか。


間もなく二人は遅刻せずにやって来た。先に来たのは山川で、山川は公園に着くまでに片道一時間以上かかるので少し心配したが無事に到着したようだった。階段を軽快に下りて来る山川には少し疲れも見られたが、その恰好はカーキっぽくまとまり周囲に馴染むようで、ほぼ自然観察をする人だった。ルナは時間ぎりぎりだったので、階段を慌てた様子で下りて来てちょっと目立っていたが、恰好にも珍しくフリフリのスカートではなく明るいジーンズだったこと以外は普段のお姫様っぽさが出ていて、人目を引きやすかった。


二人をとも子さんに紹介して受け付けを済ますと、僕は双眼鏡を借りに行こうとして、「双眼鏡借りれんの?」「え、いいなー」と二人も食い付いたので一緒に借り、しばらくして散策ツアーが始まった。


僕は毎日のように夢を見る人で、しかもその多くが怖い夢なのだけれど、ただ怖かったという印象だけが残ってその内容はほとんど覚えていない。でも唯一内容を覚えていやすい夢、というか当分はまず忘れない夢というのがあって、それは身体の一部をもぎ取られる夢だ。なぜなら夢の中でその部分をもぎ取られそうになる恐怖を感じ、実際にあとでもぎ取られ、その部分に痛みのような不快な印象を感じて飛び起きるからであり、しばらくその印象がありありと感じられてしまうから記憶に強く刻み込まれる。


それで僕は最近めちゃくちゃ怖くて、一生忘れないんじゃないかという夢を見たのだが、それは自分の股間を何者か、もしくは何かに握り潰される夢だ。男だったら誰もが一度は想像し、恐怖したことがあるシチュエーションだろうが、僕はついにそれを体験してしまったわけだ。

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