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ミラクル★フォーチュン  作者: よっしー
散策ツアー
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僕がのちに這いつくばるであろう場所は当たり前だが上流側の下端で、そのもう少し上流側で左に曲がり始めるのだが、その曲がっている辺りは規則正しく石を敷き詰めたようなボコボコした作りになっていて、つまりそれは河原を模した作りなんだと思う。


不思議なことに橋の四隅辺りに特に大きな玄武岩が置かれていて、その一つが一メートル近く上空に突き出ているのだけれど、さらに不思議なことになぜそんな玄武岩を使って堀の自然さを出しているのに、その河原の作りはあえて河原の石もどきを、これまたあえて地面に固定した作りになっているのか。玄武岩にならって、実際の河原のコロコロ丸っこい石を敷き詰めれば良かったのにと思う。実は河原の石もどきは地面に固定されていなければならない、みたいなルールがあったのだろうか。でもこんなことを言っておいて、玄武岩からその河原の方へ目を移していっても全然違和感なく堀は堀だった。


しかしよく見るとやっぱり違和感みたいなものはちょっと残っていて、おそらく玄武岩とおそらく底なし沼と吸い込み口でできた不気味な下流側を一メートル近く飛び出た玄武岩にもたれて眺め、そのままゆっくりと顔を左に捻って上流側を見ると、白っぽい河原の石もどきが枯れ葉もなくむき出しで三日月のように広がっており、それらの雰囲気の差は少なからず僕にとって違和感だった。僕がもし小学生なら、というか別に小学生でなくて今でもだが、この堀でちゃんと遊べる状態なら大半の時間を下流側の堀で過ごすに違いない。上流側は言ってみれば子供用プールで何か物足りない。


その三日月の先はどうなっているかというと、玄武岩の割と小さいやつが細い段々の水路の側面を形成し、それが続いていった一番奥に水源がある。十数年前にはその水源から勢い良く水が湧き出て、細い段々を降りて河原の石もどきの隙間もしくはその上を流れ、橋の下におそらくある隙間をくぐって下流側の深みに到達したのだろう。そこでしばらく滞留したあと、徐々に吸い込み口の方へ引っ張られ、その直上ではポンプによって急速に地下の配管へ導かれて、一応の浄化装置を通り抜けて再び水源から顔を出したに違いない。


そんな想像をしながら堀を見ていると、沢山の子供たちが穏やかに、ときには無茶なことをして遊び、それを親たちが近くで見守っている風景が堀を循環する水とともに蘇って来た気がした。ある子供は僕がもたれかかっている玄武岩に登り、他の子供や親たちの視線を浴びながら上流側に飛び降りてその勇気を示したに違いなく、着地時に跳ね上がった水は彼のヒーローっぷりをさぞ演出してくれたことだろう。


その玄武岩から下流側に飛び込むのはさすがに危険だから、その下流側の手前にある少し小さい、といっても五十センチは突き出ているから思いっきり飛べばそこそこの高さになるだろう玄武岩に上り、普通に勇気のある子は足から、かなり勇気のある子は膝を抱えておしりから、一番の強者は腹から水面に飛び込んだはずだ。さすがに頭から行くやつはいなかったと思うが、水が氾濫するぎりぎりまで溜められていたならその可能性は捨てきれない。どの地域にもアホな子供は一人くらいはいるものだ。


僕が子供のころに友達とよく行った市民プールには流れの速い流れるプールがあって、その一番の楽しみ方は「水の勢いが最も強い土管みたいな噴き出し口に、足や手を思いっきり突っ込んで肉をブルブルさせる」というもので、もちろん腹や背中やおしりを突っ込んでもいいが股間はお勧めできない。なぜなら水の勢いが強すぎで、一番やりやすい足でさえ噴き出し口が掘ってある壁の平面よりわずかに奥に到達できる程度なので、そんなところに股間を当てた日にはどうなってしまうか分からないからだ。


ちなみに僕も股間で本気の挑戦はしたことがなかったけれど、そんなに水の流れが速いところでは当然水を吸い込む力も尋常ではなくて、僕たちの二番目の楽しみ方というのも「潜って吸い込み口にピタッと張り付けになること」だった。吸い込み口に設けられた金属板には、小さな丸い吸い込み穴が等間隔に整列して空いていて、それが畳一畳くらいに広がっていたので本当に全身がピタッと張り付くのだ。きっと堀の吸い込み口も例外ではなく相応の吸い込み方をしていたはずで、そこに子供が群がらなかったはずはない。でも別に流れるプールでもないし、吸い込まれる量も多くなさそうだからまあまあ楽しいくらいが関の山だったろうとは思う。


僕はベンチに戻る途中で堀の方を振り返って見ると、その堀を見ている感じで実家の奥の物置を思い出した。その物置はたぶん祖父母の部屋にあるドアからしか入れなくて、僕の記憶では一度だけそのドアから入って中を覗いたことがあるのだが、そこは恐怖映画に出てきそうなボロボロで、汚くてネズミの死骸が転がっている物置というか地下室みたいなところだった。


たぶんそれはどこかで映画のワンシーンと記憶がすり替わっただけなのだろうけど、とにかく僕にとってその部屋はアンタッチャブルで不気味なものだった。その堀もやはりアンタッチャブルで不気味な感じが漂っていて、飲食店のオーナーからO157の話しを聞く前からそれは漂っていた気がするので、世の中には割と普段からそういった感じを出すところがあるのかもしれない。


きっとルナやとも子さんや山川がその堀を見ても、実家の奥の物置へ通じるドアを見ても同じようなものを感じるんじゃないかと思う。まあドアの方は違うかもしれないけれど、そういったところには霊が憑いてるの?とミチルに聞いても憑いてる、と返って来たからおそらく間違いないはずだ。ところで僕は霊が見えるわけではないので、霊がいるいないなどの話題はミチルに頼る必要がある。

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