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宮ノ浦公園には常緑樹は中央の東屋を囲うように生えているだけなので、紅葉シーズンを過ぎると公園は一気に冬の様相になっていた。上空を覆っていた葉たちがほとんど枯れ落ちてみると、裸になった枝たちのすき間から日が公園に差し込むので夏よりずっと明るい気がするのだが、下からよく見るとその枝どうしは蜘蛛の巣みたいに折り重なっていて、相変わらず上空を覆い尽くしているようだった。
しかし夏のように迫って来る感じはなく、むしろ一本一本はあんなに細いのに頑張って覆い尽くそうとしているようで、その姿が何とも可愛らしかった。きっと健気に来年の準備をもう始めているに違いない。自然は冬にはこんなに頑張って備えているんだから、その反動があの夏の激しさに出てしまうのも頷ける気がする。自然も夏はお祭り騒ぎだ。
枯れ葉は特に公園の西側の堀にゴミと一緒によく溜まっている。まだ見たことは無いがたぶん宮ノ浦公園は清掃員が定期的に掃除をしていて、そのために綺麗な状態が保たれていると思うのだけれど、その堀まではあまり手が回っていないようだった。でも清掃員は仕事で清掃しているわけだから、堀がちょっと深くて腰の高さくらいあるから掃除しにくいとか、公園の外れにあってあまり目立たないとかっていう理由で手を抜くだろうか。
逆に僕が清掃員なら枯れ葉やゴミが沢山溜まっている堀を見るとやる気が漲って来て、比較的綺麗な東屋やベンチの辺りより頑張って掃除をしてしまいそうな気がするが、そう思って堀の近くへ行ってみると、枯れ葉は多いが意外にゴミは落ちていなかった。おそらく飲食店のオーナーの話しや堀のやや不気味な感じから、勝手に枯れ葉だけじゃなくゴミも沢山落ちていると思い込んでしまったのだろう。でも確かにゴミが落ちているのを見た記憶もあるので、それを堀の印象から勝手に増幅してしまっただけかもしれない。
堀はなぜか玄武岩みたいな黒くて巨大な岩が縁に沿って並んでいて、それが堀の両側面となって水の通路を作っているのだが、特にそれらの岩の一つは本物の険しい山脈や噴火口近くに転がっているような、大自然の迫力を内に秘めた特大の岩だった。堀の深さ、つまり堀が掘られた元の地面の平面から堀の底の平面までの深さは人の腰くらいなのだけれど、それらの岩はその深さを二十センチも三十センチも越えて上に飛び出していて、その特大の岩に限っては一メートル近くは飛び出しているから、堀に入ったときの圧迫感は公園の堀といった感じではないだろう。
堀の底には枯れ葉が敷き詰まっていて、ちょっと降りる勇気がないのでまだ降りてないから分からないが、そこに降りて清掃する清掃員は一味違った掃除のスリルを味わっている、もしくは楽しんでいるのかもしれない。仮に僕が小学生で、その堀も手入れがされて綺麗な水も流れていたら、間違いなく夏休みなどは友達と遊びに来ていたと思う。それくらい堀は不気味で同時に好奇心を誘うのだけれど、やっぱり今は堀の底に降りる気にはなれない。
枯れ葉に隙間なく覆われた堀の底はどうなっているのだろうか。堀のすぐそばに「水の中に入って、遊んではいけません!」という注意書きがあって、誰が見ても水なんてないよと突っ込んでしまいそうなのだが、実はその枯れ葉の下は底なし沼みたいになっていて、そこに一歩足を踏み入れたらじゃぼんと、もっと粘り気があればずぼっとなってしまうんじゃないか。
それで少しずつ足が沼地の奥深くへ入っていき、そこで初めてその堀が底なし沼だったことを人は知るのかもしれない。そのときは側面の玄武岩っぽい岩に掴まって難をしのぐしかないのだけれど、不幸にもそれらの岩は丸っこくて角がないから掴みにくそうだ。
水は流れていないが堀を上流だった方へ遡って行くと、ようやく公園の堀らしくなって来る。堀は遡るとその終端辺りの手前で左に曲がっているが、直線にしたときの全長はだいだい二十メートル程で、一番不気味なのは最も下流の水の吸い込み口がある辺りだ。吸い込み口だけが枯れ葉で埋め尽くされた底からぬっと生えていて、さらにそれが玄武岩の断崖絶壁に囲まれているのだけれど、上流にはそんな風情が多少残っている程度だ。
全長のほぼ真ん中辺りに上流と下流を隔てる小さな橋があって、堀の幅は広くても一メートルくらいしかないから橋と呼ぶには心元ないけれど、たぶん橋の下には堀の水が流れていた形跡があると思う。というのも上流側は下流側に比べてとても浅く、たぶん水深にすると十センチ程度で橋の辺りはその水深で作られているので、立ったまま橋を見ると橋の下端と堀の底の間にはほとんど隙間がないように見えるのだ。なので本当に隙間があるかどうかは、堀に這いつくばって確認しなければ断言できない。
おそらくほぼ百パーセント隙間はあるだろうが、使われなくなってからその隙間が何かによって埋まってしまった可能性もあるので、機会があったら確認してみようと思う。ただ下流からだと堀の底に一度降りて覗き込むか、側面の玄武岩の上に腹這いになって捕まり、顔だけを堀の中へグッと突っ込んで覗き込まないといけないのでこちらは余計勇気が必要で、もし下流側から覗くなら、たぶん前者のように堀の底に降りてしまう方が楽にできるだろうからこっちを選ぶ。
頭だけを堀の中へ入れるというのは想像するだけで恐ろしく、底から突然何か出て来てもたぶん反応できないだろう。でも実際に確認するときはほぼ間違いなく上流側から這いつくばるので、とても簡単にできるはずだから気が楽だ。




