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ミラクル★フォーチュン  作者: よっしー
とも子さんと山川
1/19

こうして宮ノ浦公園のベンチに座っていると、あっちの世界が本当に存在すると心から思えるのがどれだけ素晴らしいことかあなたは全然分かっていない、とミチルに言われたことをたまに思い出すのだけれど、言われたといっても普通に耳で聞くように聞き取ったわけではなく、何というか雰囲気を感じ取るみたいに聞き取ったので、そんなにはっきりと言葉にできるものではないのだが言葉にするとだいたいそんな感じだ。


それで間違いないはずだ、とそう思える理由は、どうやら心に濁りがあるとあっちの世界の声というか雰囲気は聞き取りにくくなるようで、僕は占いでお客さんをみるときのためにいつも自分の心を綺麗な状態に保たないといけないのだが、その言葉は僕の心がかなり濁っていたにもかかわらずぶわっと飛び込んで来たからであって、きっとミチルが聞こえるよう配慮してくれたんだと思う。


僕は物心ついたころから変なのが見えたり聞こえたりしていて、それを食事の前にはいただきますと言うとか、夜寝る前には歯を磨くみたいに当たり前のことだと思っていたので、その状態がミチルの言った心から思っている状態なのかと最初は思ったのだが、何度となくその言葉を思い出しては考えていると徐々にそうではないような気がして来て、実は変なのが見えたり聞こえたりが当たり前なのはそんなに関係ないんじゃないかと思うようになったのだけれど、その考えが正しいかどうかはまだミチルには聞いていない。


そもそも何が正しいかなんてどうでもよく、ミチルはただ僕を叱咤激励してくれただけなのかもしれないけれど、僕はあっちの世界の人が何を考えているかなんてこっちの世界の人にはまあ分からないよなと思いつつも、ひそかにその言葉の真意がいつか自然と心に浮かんで来るんじゃないかと楽しみにしている。


宮ノ浦公園は僕の木造二階建てアパートのすぐ目の前にあって、初めてその公園を見たときは緑が豊富でゴミもあまり落ちてなく、そこまで人もたくさんいないから僕としてはすごく良い公園だと思ったのだが、幼少のころから宮ノ浦公園で遊んでいたという個人料理店のオーナーに話しを聞くと、そこはどうやら曰く付きの公園みたいだった。


日中は良いが夜になると怪しい人が頻繁に出没するし、それに昔は公園の西側に東西に走る短い堀に水が流れていて、そこで子供たちは元気よく遊んでいたのだが、O157が流行ったときにその堀の水も被害を受けて使用停止になって、十数年たった現在でも当時の面影を不気味に残していたりと、とにかく明るい話題のない公園だったそうだ。


僕はそう聞いてからは何となく日中なのに公園の中が暗い気もして、もちろん明るい話題がないことと公園の暗さには因果関係はないのだけれど、よくよく周りを眺めてみると、そこまで広くない公園の敷地に木々が七、八歩に一本くらいの割合で密集し、直径が五十センチから一メートル近いようなものがごろごろ生えていて根っこもうねうねとむき出しで、上空の高いところで幾重にも重なる黒々とした葉や枝は、何だか公園を覆い尽くしているようで不気味だった。その不気味さは初秋という季節が影響しているわけではあるまい。


「ここの木は、昔からこんなに立派だったのかね?」声に出す必要は無いが一人のときはいつもこうしてミチルに話しかけるのだけれど、やっぱりミチルが何の返答もしてくれなかったのは、くだらないことで話しかけるなという意味だ。


公園の話しをしてくれたオーナーのお店は、僕のアパートから公園を突っ切って、さらに狭い路地の道を通り過ぎた先の比較的大きな通りに面していて、ちょうど僕の座っているベンチから左手に見える新築マンションのすぐ隣りにあるのだけれど、たぶんその新築マンションは公園の巨木たちの高さとちょうど同じくらいかなとふと思った。


ベンチに座って下から見上げていると、四方八方に伸びる葉や枝で隙間なく埋め尽くされた空間が眼前に迫って来るような気がしたり、ときには個々の葉や枝が揺れるのではなくその空間全体が波打つように上下に振動し、ある一点では上空の遥か彼方まで遠退いているように見えたりするので、下からではその高さを把握するのは難しいから実際のところは分からない。とりあえず今言えることは、新築マンションと巨木たちの高さなんてものが気になってしまうくらい、僕はリラックスしてベンチに腰掛けているっていうことくらいだろう。


枝葉が擦れる音やわずかに残った蝉の声などに耳を傾けていると、僕は不意にあっちの世界のことが気になってきて、今までそんなことは全く思わなかったのだけれどつい「あっちの世界にも木はあるの?」と馬鹿みたいな質問をしてしまった。するとミチルは意外にも、全ての自然がある、みたいな返答をしてくれて驚いたのだが、ミチルの言葉は普段このくらいの一言なのであの言葉は長さだけでも異例のものであり、やっぱりミチルは何か僕に伝えたいことがあったのかもしれない。

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