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待っていたアイドル

作者: みぶ真也

「みぶ兄、おはようございます」

 控室に入った途端、声をかけられた。

 見ると、グラビアモデルの浅井ひさこが部屋の奥に座っていてびっくりした。

「ああ、おはようございます。ひさしぶりだね」

 と応える。

 彼女とは、十年近く前にTVドラマの同じ回で共演して以来会っていなかったのだ。

「みぶ兄、お元気でした?まだ、怖い話やってるの?」

「うん、まだラジオのコーナーは続いてる。ところで、ひさこちゃん、引退したような話を聞いてたけど…」

 浅井ひさこと言えば、一時は雑誌・テレビなどメディアに引っ張りだこだったが、ここ数年、ほとんど見かけることがなくなった。

 だから、今日、放送局の控室で会ったのには驚いたのだ。

「それが、自分でもよくわからないの」

「っていうと?」

「ある日を境に、ばったりお仕事が来なくなって…」

 確かに、人気アイドルが飽きられてきて仕事が減っていくところはよく見てきた。

 だが、彼女の場合、全盛期の途中でメディア露出が消えてしまったのがちょっと不可解な気がしたものだ。

 今日、これから撮ることになっている番組に、ぼくはサプライズ・ゲストとして登場することになっている。

 だから、他の出演者に顔バレしないようにこの控室を使うのは自分ひとりだけだと聞いていた。

 それもあり、彼女が待っていたことが意外だったのだ。

「みぶさん、そろそろ出番です」

 ADの木村くんが呼びに来た。

「はい、ひさこちゃんはまだいいの?」

「誰ですか?」

「浅井ひさこさんもいるんだけど」

「みぶさん、何を言い出すんですか」

 木村くんは怪訝な表情で応える。

「浅井ひさこさんは亡くなったらしいですよ」

「そんな馬鹿な。今この部屋に…」

 振り向いたが、控室の中には誰もいなかった。      つづく

「それは確かなの?」

 尋ねると

「ええ、ネットで調べてみてください」

 さっきまで彼女がかけていたはずの椅子を振り返りつつ、スタジオに向かう。

 本番が終わってから、帰りのタクシーの中でスマホを出し調べてみる。

 確かに2チャンネルやツイッターでは彼女の死亡説が飛び交っていた。

 人気絶頂の時に、不意にメディアから姿を消したから当然かも知れないが、それにしても生きているかどうかすら知る人がいないようだ。

 だとすれば、ぼくが今日会った浅井ひさこはなんだったんだろう。

 昔、ドラマで共演した時と外見は変わらなかったし、その頃と同じようにぼくのことを“みぶ兄”と呼んでいた。

 もしかしたら、本当に彼女は死んでいて、まだこの仕事に未練があって局の控室に出て来たんだろうか。

それとも…

その時、タクシーのラジオがニュースを伝えてきた。

「モデルで歌手で女優でもある浅井ひさこさんが、意識不明の重体であったことがわかりました。

 浅井さんは3年前、交通事故に遭って重体となり、集中治療室で治療を受けていましたが、先ほど、意識を取り戻し、今は元気に食事を摂れる状態だということです。

 浅井さんの状態に関しては、家族の意向で今日まで事務所から発表を差し控えていましたが、今夜9時には会見を行う予定です」

 偶然のニュースに驚き、また、安心もしたが、そうなるとさっき彼女と会ったことがますます謎になる。

 帰宅してテレビをつけると、会見はすでに始まっていた。

 控室で会った時と変わらない表情の浅井ひさこが映っている。

「意識が戻った時は、どんな感じでしたか?」

「私、意識が戻る直前まで夢を見てたんです。

 局の控室にいたらみぶ兄が入ってきて、今も怖い話のコーナーを続けてるって話を聞いたとこで目が覚めました。

 もしかしたら、みぶ兄がそのことをラジオで紹介してくれるかも知れませんね」


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