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君と僕がいた夏  作者: 掃晴娘。
プロローグ
8/37

喫茶ピノキオ③

「ここがピノキオなのね。いいわね、写真で見るよりおしゃれ」

 彼女は社会科見学にでも来た小学生のようにはしゃぎ、嬉々としていた。

「お客さんもいるんだから、店内では静かにしてね」

 もちろんよ、と彼女が胸を張る。

 カランカランというベルの音と共に、彼女を連れ店内に入る。

 店内には二人しか客はおらず、マスターは新聞を読み、穏やかに過ごしていた。

「やあ、お疲れ様」

 店長は挨拶をすると、おや? といった感じで僕の背後に視線をやった。

「そちらの子は? お客さんかな? それとも彼女?」

 ニヤリと笑われた。

「違いますよ。昨日話していたバイトの件なんですけど、やりたいって人がいたので、急ですが連れてきました」

 そう訂正すると、マスターは慌てたように新聞を乱暴に畳み、カウンターから出てきた。

「おお、そうか! 来てくれて嬉しいよ。藤川君も紹介してくれてありがとう」

 マスターが彼女に握手を求め、彼女も笑顔で手を取った。

「初めまして、瀬名葵と言います。今日は藤川君の紹介で来ました。事前の連絡もなく、すっみません」

 昼休みの理不尽な誘導尋問や強引さはどこへやら、彼女は礼儀正しく、愛想がよかった。

「いや、バイトの件もだけど、よかったよ。藤川君にこんな可愛い友達がいたなんて」

 隅に置けないな、とマスターに腕を小突かれた。

 友達ではないと言おうと口を開くと、それよりも一瞬早く彼女が言った。

「はい、私と藤川君は友達なんです」

 思わず耳を疑い、彼女を見る。

「そうなの?」

「そうよ」

「いつから?」

「転校してきた時からよ」

「そうなの?」

「君しつこいわね」

 ちぐはぐなやり取りにマスターは小首をかしげるも、気にしなかったようで、笑顔で言った。

「じゃあ面接を、といきたいところだけど……」

 少し思案した後、言った。

「まあ、藤川君の紹介なら大丈夫でしょう」

 採用! と親指を立てた。

「マスター! ちょっと待ってくださいよ。どんな子かも分からないのに採用はないでしょう」

「でも藤川君の友達なんだろう? じゃあ問題ないよ」

「どうしてですか」

「しっかり者の藤川君の紹介なら、きっと葵ちゃんもしっかり者だと思ってね。あと、こんなに可愛い子がウェイトレスをしてくれるなら、うちの店も繁盛すること間違いない」

「ありがとうございます。私しっかりお仕事します」

「そうか。じゃ早速だけど、週何日入れるかな?」

「最初は不安なので、藤川君と同じ日に入ってもいいですか?」

「そうだね、仕事は実際やりながら覚えるのがいいね。オーケー。じゃ、最初は週三日から始めてもらおうかな」

「よろしくお願いします!」

 戸惑う僕を置き去りにして、あれよあれよという間に話は進み、彼女の採用だけでなく勤務日までもが決まってしまった。

「藤川君」

 彼女が言った。

「これからよろしくね」

 僕は適当に相槌を打ち、失意の中でロッカールームへ入った。


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