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君と僕がいた夏  作者: 掃晴娘。
プロローグ
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君との出会い①

 僕と彼女が出会ったのは、高校一年生の夏だった。

 夏休みも間近に迫った七月の朝のホームルーム。

 みんな夏休みにどこに行くか、何をして遊ぶか話すことに一生懸命で、教壇に立つ担任の話などあまり耳に入っていないようだった。


 僕が通う高校は一応進学校であり、各地域から様々な生徒が入学する。エスカレーター式ではないため、孤立した高校生活を送らないために、まず友人作りをしなければならない。入学してから約三か月。ある程度の生徒は新たな友人を作り、高校生活を楽しんでいるようだった。この夏休みは、新たに出来た友人との絆を、遊びを通して強くするための重要なイベントであり、また他のグループとも交流をもつことで、さらに大きなコミュニティーを作れる可能性がある大切な時期だ。僕は大体、誰と誰とが友人関係なのかを当てることが出来る。彼らの頭の上に矢印が浮いており、友人の方へと向いている。相互に向いている矢印もあれば、一方通行のものもある。自分は友達だと思っていても相手はそうではない。そういう人は若干グループから浮いていたりするので、見ていて明らかだった。恋愛も然り。友人の矢印の色が青なのに対し、恋愛は赤色なのである。相互に向いているものもあれば、一方通行の矢印もある。

 みんな思い思いに青春を謳歌しているようで何よりだった。

 かく言う僕の矢印はどこへも向いておらず、言い換えれば、いや、言い換えなくても僕には友達はいなかった。別に必要だとも思わなかったし、困ったこともなく、孤独を感じることもなかった。いつもの通り。通常運転だった。


 頬杖をつき、担任を見る。

 連絡事項を伝え終えた担任が咳払いをひとつし、転校生を紹介します、と言うと、それまで騒がしかった教室が急に静まり返り、一斉に教壇を見た。

「女ですか? 男ですか?」

「この時期に転校?」

「どこから来たんですか?」

 静寂は一瞬で、先ほどよりも騒がしくなり、皆思い思いの質問を担任にぶつけていた。

「質問は直接本人に聞くように。ちなみに、女子です」

 その一言で、男子は悲鳴に近い嬉々とした声をあげ、それを見た女子は、男ってバカよね、と言わんばかりにため息をついた。

「それでは、入ってきなさい」

 担任の一言で、また教室が水を打ったような静けさに包まれた。

 キキキと、錆びついた金属が擦れる音と共に、女の子が入ってきた。

 小柄で、透き通るような白い肌。

 しっとり濡れたような艶のある栗色の髪。

 目鼻立ちも整っており、文句のない美少女だった。

 彼女の登場に、男子が一斉に沸く。

 人に興味を持たない僕でさえ、少し見とれてしまった。

「では、自己紹介を」

 担任の声に小さく頷き、彼女が口を開いた。

「はじめまして。瀬名葵です。親の転勤でこちらに越してきました。友達も全然いないので、仲良くしてもらえると嬉しいです」

 よろしくお願いします、とお辞儀をすると、ポニーテールが小さく揺れた。

「彼氏はいますか?」

と、ひょうきんな男子が大袈裟に挙手しながら大声で訊く。

彼女は少し困ったように笑い、いません、とだけ言うと、また男子が反応し騒ぎ出した。

 見かねた担任が出席簿で教壇を二、三度たたき、静かに、と言う。

「初めての転校で初めての土地だ。不安なこともあるだろうから、まあ、仲良くしてやってくれ。席はそうだな……。藤川の後ろが空いているから、そこに座りなさい」

 そう言われ、ぎょっとした。まさか転校生が来て、空いている席に座りなさいと言われ、それが自分の真後ろの席だなんて、ドラマみたいな展開があるのか? と冷や汗をかいた。僕の席は窓際の後ろから二番目。ここは静かに日常をやり過ごすことが出来る場所なのに、その後ろに転校生なんて来たら、クラスメイトが質問攻めにするために殺到してしまうじゃないか。確実に訪れる未来を想像し、大きく深いため息をついた。

 彼女はそんなことは露知らず、はい、と愛想良く微笑んだ後、こちらに向かってきた。途中、よろしく、休み時間に話そうね、等声を掛けられるたびに嬉しそうに微笑んでいる。 

 彼女は席に着くと、

「藤川君、今日からよろしくね」

 と、背中に彼女の声がした。

 少し振り向き、こちらこそ、とだけ伝え、姿勢を戻す。

 窓際の一番後ろは隣に席がないため、ご近所さんは必然的に僕だけということになる。それを知ってか、知らずか、

「藤川、当面の間面倒を見てやってくれ」

 頼んだぞ、と担任に言われる始末。

 学級委員長がいるのに、何で僕が面倒を見なきゃならないんだ。

 とても面倒だ。

 いいタイミングで、委員長にバトンタッチしよう等と考えていると、ホームルーム終了を告げるチャイムが鳴った。



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