一話:始まりの玉座
__嗚呼、いつになればこの憂鬱な国から解き放たれることが出来るのだろうか。
今日も彼女は考え、思い悩む。一刻も早く”平和”が訪れることを願って。
大規模地下帝国。それはこの世界に存在する地底を掘って作られた巨大帝国の名である。
階層は39。言うなれば「悪魔の帝国」。その名の通り悪魔達が住んでいる。
その最深部から一階層上の第38階層の中で最も広く豪奢な部屋。その部屋に彼女は居た。
その名はアルナイル。時期皇帝として選ばれし人物だ。彼女の髪は白く、瞳はブルーサファイアをはめ込んだかのように美しい。歳は18そこらに見えるが、実際の所は279歳である。
「アーリィ。現在の戦況はどの様になっておるのじゃ?」
「今の所此方の軍がおされてます。部下が調査に参りました所、帝国軍がおされ始めたのはプロクス系統の魔術を操る上位天使が1体出現し、加勢を始めてからとのことです」
アーリィと呼ばれた薄紫の髪の悪魔はアルナイルに仕える、帝国軍最高の権力と強さを持つ者。アーリィ
というのは愛称で本名はラムダアクァーリィという。眼が悪いのか、左目に銀縁のモノクルを付けている。
アルナイルより幾つか年上に見える。
「先に札を切りに来たか……。此方の軍勢力投入の許可さえ下りれば総力戦に持ち込めるのじゃが……」
「早く皇帝に動いて頂くか玉座をルナ様に譲って頂くかして貰わないとですが……」
「今日も彼奴にお願いしに行ってやるか。これで何回目のお願いじゃろうな」
「今日で丁度134回目です」
その数字を聞いたアルナイルがため息を吐く。
「さあ、参りましょう。玉室を血の海にするのは勘弁ですからね」
そう言って2人は最深部である第39階層に足を運んだのだった。
コンコンと、2回扉をノック。
「失礼いたします」
「誰だ」
「〈九つの光〉ラムダアクァーリィで御座います」
「入れ」
入室許可を得てから中に入る。
そこで玉座に座っているのは只々ボーっと惚けている緑髪の男、サダクピアだった。
「なンの用?」
「サダクピア陛下率直に申し上げます。どうか第1階層から4階層に住む住人へ避難指示を出して下さい。このままでは天使共が第一階層に侵入し、住民へ被害が行くこととなりかねません」
ラムダアクァーリィの言葉を聞いたサダクピアは顔を濁らせた。
「あのさァ、何回オレに同じことを言いに来れば済む訳?」
「何回でも」
冷淡とした顔で彼女は答える。
「何回言われようと答えは『ダー』だ」
「何故でしょうか」
「避難して来た住民の食料が無いンだよ」
「王宮に大量の食糧の備蓄が有るではありませんか」
「あれは敵が第20階層まで攻めてきた時に開放する用の物だ! 使うべきは今では無いさ」
「でしたら増援として軍の上官部を送る許可を下さい。せめて〈一つの光〉全員だけでも」
「駄目だ」
「何故です!!」
「上官部はただの兵とは違い、一人一人が強いだろ。だが多勢に無勢。一人でも強き戦士を失うのは痛手だ」
「強き者が戦場に出ないでどうするのです! それでは意味がないではありませんか」
「下がれ」
しびれを切らしたサダクピアが部屋を出るように命令を出す。
「初代皇帝に選ばれし白髪だがなんだがしンないケど小娘に何が出来るンだよ。さっきだって現に白髪の小娘は一度も喋っちゃいないだろ!」
「……、陛下。最後にご忠告を。
貴方様の最近の行動はどう考えても我が帝国の為とはとても思えないものばかりです。準備が整い次第アルナイル様を皇帝に取り立てる為陛下を排除致します。
この帝国全体が、貴方の敵だ」
最後にそう言い切ったラムダアクァーリィは静かに皇帝自室へ繋がる扉を閉めたのだった。
変えていける、この世界を。
変えて見せよう、この世界を。
その為にはまず現帝国皇帝サダクピア。彼を無力化する。
これは、世界を救う為に戦った少年少女達の物語である。