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契約結婚のはずがどうしてこうなった

作者: りったん

 海に囲まれた大陸──ゲンレンダは五つの大国に分かれている。もともとは一つの大帝国だったのが、数千年を経て今の形になった。中央に位置する国はアンテルシアといい、北に位置するバルフェスタ国という。

 もともと仲が良かった二国だが、この秋、バルフェスタ国の王子レンディアンとアンテルシアの第三王女の電撃結婚が決まった。レンディアンはその名を大陸に轟かすほど類まれな美貌と、伝説級の魔導士すら舌を巻くほどの頭脳明晰で知られ、彼の結婚は大陸中の女性が身分も年齢も関係なく嘆き悲しんだ。

 なにしろ相手は残念で有名なアンテルシアのリアリューレ王女である。あまり表に出てこないが、噂によると「地味」「とろい」「ブス」の三重苦である。そんな美男と野獣の結婚に様々な陰謀説がささやかれ、バルフェスタの王宮には結婚中止の嘆願書が山のように届き、声高に訴えるものが列をなした。

 もちろんそれは国の中枢にも。

「レンディアン様!どうかアンテルシアの王女との結婚をおやめください!あなたさまであればより取り見取りですよ!!」

「大臣たち。いい加減うるさいよ。誰でもいいから身を固めてほしいって言ったのは君たちでしょう?」

 呆れたようにレンディアンは臣下を見る。

 うぐっと言葉を詰まらせるが、勇気のある大臣が言い返した。

「ですが!なぜリアリューレ王女なのですか!アンテルシアと同盟を結びたいのなら他の王女方でもよいではありませんか。美貌で名高いガルラ様や聡明と噂されるヴィシーナ様!それなのになんで!よりにもよって!残念王女のリアリューレなのですか!」

「あ、不敬罪。次期王妃を呼び捨てなんて極刑待ったなしだよ?」

 すっとレンディアンの瞳が細められる。笑顔がなくなるとこの王子の顔は背筋が凍り付くほど怖い。

「レンディアン様。殺気を抑えてください。あとおじい様。この結婚はもう決定事項です。国王陛下からもお許しいただきましたし、覆すことなどできません。命が惜しければ大人しく引き下がってください」


「シュベルト!おま、おまえ!王子のおそばについていながら、なぜお止めしなかった!」

 左大臣は自分の孫に怒鳴りつける。貫禄のある左大臣は声もでかいし体もでかい。調度品がびりびりと振動するが、シュベルトはそよ風ほどにも感じない。

 眉一つ動かさず、涼しい顔をしている。

「そりゃ命が惜しいからですよ。ほら、早く部屋から出て行ってください」

 王子付きの騎士がご丁寧に扉を開けて帰るように誘導する。じりじりと詰め寄られ、大臣たちは悔し涙を流しながら王子の部屋から出た。

 小さくため息をつき、レンディアンは椅子に座る。

「リア。もう出てきていいよ」

 そう言うと奥の扉が開いて、絶世の美少女が姿を現す。華美ではない控えめなドレスだが、華やかな黄金の髪とグリーンの瞳、そして人形さながらの端正な顔だちが、彼女の美しさをより際立たせていた。

「レンディアン。こことここ、間違えてる。あとここはこうやった方が節約できるわね」

「ありがとう。相変わらず仕事が早くて助かるよ。本当に君は王女にしておくのがもったいないよね。もし男で身分が王女でなければ側近として重用しているよ」


「ふふ。レンディアンは実力主義だものね。それにしても私ったらひどい嫌われようね。言われても仕方がないけど」

 リアリューレは苦笑する。

 リアリューレは第一王女のガルラほど美しくないし、第二王女のヴィシーナほど頭もよくない。二人はリアリューレを可愛がってくれたけど、自身が落ちこぼれなのはよくわかっている。

 ほんとうにレンディアンが求婚してくれてよかったと思う。そうでなければ、私は行き遅れで皇太子である兄のお荷物になっていただろう。

 シュベルトは何かを言いかけたが、先にレンディアンが動いた。

「気にしないでよリア。僕たちは幼馴染だし、結婚をせっつかれて困っていたのは僕なんだもの。リアが話に乗ってくれてすごく助かっているんだ」

「慰めてくれてありがとう。レンディアン。でも、迷惑になったらすぐに言ってね。契約結婚だけど、レンディアンの迷惑にならないようにするから。お兄様たちも戻ってきていいって言ってくれてるし」

 リアリューレの気遣いにレンディアンはほほ笑む。

 だが、シュベルトから見れば魔王のほほ笑みであるが、リアリューレにとっては幼馴染の笑顔なんだろう。

 必死に「迷惑はかけないから」「役に立たなかったらすぐ追い出して」と可愛い口からもれるのは健気ではあるが、この魔王から冷気が漏れ出してることに気付いてほしい。

 だいたい、リアリューレのネガティブな噂だって、リアリューレを王家から出したくないアンテルシアン王家が広めた真っ赤なウソだ。さらに幼少期の式典でリアリューレに一目惚れしたレンディアンも一枚嚙んでいる。


 大陸の貴族の子は5歳になれば、正教会の本山に集まり、教皇から洗礼を受ける習わしがある。そこでリアリューレはレンディアンに惚れられた。ほかの王子や大貴族の子弟にも一目惚れされたが、アンテルシアンが隠ぺい工作をしたため素性は

気付かれない筈だった。


 レンディアンは持って生まれた優れた頭脳をリアリューレ探索に活用した。密偵を放ち、街のゴロツキを雇い、あまつさえ犯罪組織とすら手を組んだ。なお、犯罪集団はいまや立派なレンディアンの犬となって滅私奉公している。

 昔からレンディアンはリアリューレがかかわると恐ろしかった。シュベルトはそれを小さいころから知っている。だから主君の恋が成就できて本当にうれしい。

 なにしろ一歩間違えれば戦争だったのだから。


 夜になり、リアリューレは寝室へと向かう。湯あみもして食事も食べて、やっと寝られると扉を開けばそこにレンディアンがいた。


「レンディアン?あの……ここは私の寝室だと思うんだけど?」

「そうだよ。でも僕らは夫婦になったんだから別々はおかしいだろう?」

「そ、そうね」

「それじゃあ寝ようか」

「え。ベッドも一緒なの?」

「もちろんさ。だって僕らは夫婦だもの。ね、いいでしょう?」

 僕がほほ笑むとリアリューレは恥ずかしがりながらもうなずいてくれる。ああ、可愛い。本当に手に入れてよかった。

 僕が永遠に幸せにしてあげる。

 ジール王国のベルグンやゲルシュアル王国のフェルス、シェンリン王国のワンシェン、教皇の息子のフィリップ。君は彼らを覚えているかい?無謀にも君に一目惚れして愛をささやいた愚かものたちさ。

 奴らは君を奪うために戦の準備をしているんだ。

 

 じきにこの大陸は戦火に飲まれるだろう。


 でも君はそんなこと知らなくていい。いつものように笑ってこの王宮で暮らしていればいい。


 僕の愛を君だけに捧げるよ。



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― 新着の感想 ―
[一言] これって戦争や混沌の神様とかが一枚噛んでそう。 いくらなんでも傾国すぎるw 公に顔出しできないなぁこれは。
[一言] ひえぇぇ~、まさに傾国の美女。 兄姉達が助けに来てくれることを願ってます。
[一言] 一目惚れで大陸を戦乱に叩き込むのか、ヤバいのばっかだこと
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