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ピリカ

作者: 當宮秀樹

北海道は羊蹄山の麓、倶知安町で娘は育った。 


名前は立花美利河十八歳。 地元倶知安町の高校に通う普通の女子高生。 

ただし、チョット普通の女の子と違う感性の持ち主。


「お母さん、行ってきま~す」


「ハイよっ、気をつけてね。 走るんじゃないよ!」


倶知安町の朝は四月でもコート無しでは通学できないくらい寒く、

道路端にはまだ残雪があり、その隙間からはふきのとうが顔を出していた。 


ふきのとうは北海道の春を告げる光景。 今日から高校三年生。 

担任も持ち上がりでクラス替えもなく、大好きな学友とも

久しぶりに顔を合わせる。 

どういうわけか学年変わり初日はワクワクして大好きだった。


家の玄関を出て飼い犬のモモに「モモ…わたし今日から三年生なの、

高校最後の学年なんだよ、ねぇ、モモ聞いてる……?」


「聞いてるよ、それより帰ったら散歩しよう」


「うん、わかった。今日は帰りが早いから待っててね……」


猫のミミが「ピリカ。 あんたら二人だけで散歩行くつもりなのかい?」


「わかった。みんなで行こう。 ミミごめんね」


「いいよ、そんなに気にしてない。 それより早く学校へ行きな」

ミミは足の毛づくろいしながら呟いた。


「は~い、行ってきま~す」


隣の農家、山田さん夫婦はそんなピリカの様子を見ていて

「お父さん、またピリカちゃんったら犬のモモや、

猫のミミと話してるよ変な娘だね……」


「う~ん、もしかして本当に話してるのかもなぁ? 

あの娘は少し変わってるもんな。 

それにモモとミミの表情を見てみろ、ピリカちゃんの言葉に

ちゃんと反応してるようにみえねえか?」


「そう見えなくもないけど…… んな、馬鹿な!」


そう、この物語の主人公のピリカは動物と会話をする能力の持ち主。 



まだ寒さの残る五月の夜七時頃インターホンが鳴った。


「ごめん下さい」女性の声。


母親の洋子が「は~い、どちら様ですか?」


「隣の山田です。 夜分すいません」


「はい、チョット待って下さい」


なんだろう? 洋子は玄関ドアの施錠をはずしドアを開けた。 

そこに、緊迫した顔の山田さんの奥さんが立っていた。


「夜分すいません。うちのユキ見ませんでしたか……?」


「いえっ、見てませんけど…… ユキちゃんどうかなさいました?」


「はい、夕方畑で遊んでいたんですけどまだ家に帰らなくて……」


「チョット待って下さいピリカに聞いてみますから」


洋子は二階に向って「ピリカ~チョット降りてきて」


「ハ~イ」


階段をおりてきたピリカは「あっ今晩は……」

瞬間ピリカは若奥さんの顔を視てただならぬ気配を感じ取った。


「あんたユキちゃん見なかったかい? 夕方、畑で遊んでいて

それっきり、まだ家に帰ってこないんだってさ……」


「六時頃その辺で遊んでるの見かけたけど……その後は解らない」


「ピリカちゃんありがとうごめんね。 警察に連絡してみる」


ピリカは外に出て犬のモモの前に立った。


「ねぇ、モモ、隣のユキちゃんいなくなったの、モモ見かけなかった?」


「夕方ユキちゃんの気配はしてたけど、変わった感じしなかった。 

わたしはそのまま寝たけどミミに聞いてみたら?」


「ありがとうモモ。 もしユキちゃんの気配感じたら

大きな声で吠えてね」


「あいよ」


ピリカは両手を口に当て叫んだ「ミミ~! ミミ~!」


家の裏手からミミの鳴く声がした。


「なに? どうかした?」


「ねえミミ。 隣のユキちゃんいなくなったの、あんた心当たりない?」


「さっき川の方に歩いて行ったけど……」


「誰かと一緒だった?」


「いや、一人で歌いながら歩いてたけど…… どうかした?」


「まだ家に帰ってないのよ…… ごめんミミも探してくれないかなあ?」


「うん、いいけどモモも探そうよ」


「うん、わかった。 私、ユキちゃんの臭い知ってるから臭いを辿る……」


「ありがとう。 後で美味しいもの沢山あげるからね」


ピリカと犬のモモ、猫のミミは臭いと気配を頼りに川へ向った。


モモが「ミミ、あんたそろそろキツネや狸が出てくる

時間だから気をつけなさいね」


ミミが「うん、私になにかあったら護ってね」


モモは「あいよ」


ピリカ達は川岸の方へ向った。


「ユキちゃ~ん……ユキちゃ~ん!」


四〇分ほど探した頃突然上の方から声がした。


「あんた、ピリカじゃないかい……?」


ピリカは声の方を見た。 そこにはフクロウの姿があった。


「フクロウさん久しぶりです。 ……そうだ、女の子探してるの、

見かけませんでした?」


「その子かどうか解らないけど。 あそこの青い屋根の小屋の辺りで

女の子が遊んでたよ。 もう暗いのにひとりで大丈夫かなって思ったよ」


「フクロウさんありがとう感謝します。 今度、魚たくさん差し入れします。 

わたしの部屋に遊びにきてね……」


ピリカたちは小屋の方に走り寄った。


モモが「この匂い間違いない。 ユキちゃんの臭いが強くなってきたから

あの小屋かも知れない。急ぎましょう」


ピリカは小屋のドアを開け中に入った。 

藁の上にユキちゃんが無邪気な顔で寝ていた。


「ユキちゃん、ユキちゃん……ねえ返事して! 大丈夫? ユキちゃん」


「……あれ? ピリカねえちゃんだどうしたの?」


ユキちゃんは何事もなく無事保護された。


翌日の朝。


「お父さん、今日の夕方までにフクロウさんにあげるニジマスを

尻別川で釣ってきてほしいの、そして私の部屋のベランダに

タライに入れて生けすにして置いておいて欲しい。 

それと、モモとミミにも昨日のご褒美をお願い」


「解った。 それはいいけど、ピリカ、お前フクロウとも

知り合いなのかい?」


「フクロウさんとは昨年知り合ったの」


「鳥の知り合いとは珍しいね」


「鳥の世界観ってけっこう面白いの。 特に渡り鳥は色んな国の話しを

してくれて凄く面白いの。 ほとんど自然環境の話しだけど」


「鳥も自然環境の話しするのかい?」


「渡り鳥は水鳥が多いからそういうことに敏感なのね」


「例えばどんな?」


「湖の水質がたった一年で変わってしまい、魚が激減していたとか。 

水が減り地面が多くなって湖の形が小さくなったっていってたよ」


「そっか~なんか複雑な気持ちだな、人間を昔の人は万物の霊長だなんて

表現したけど、恥ずかしい話しだ。 ピリカも渡り鳥からいいこと学んだね」


「お父さん万物の霊長ってどういう事?」


「うん、人間はこの地球上の生物の中で最も能力があり優れている

存在という意味なんだけど。

その霊長様が自然破壊し、挙げ句の果てに自分達の首を絞めるはめに…… 

まったく情け無い話しだ。 完全な人間のおごりだ」


「へんな話しだね」


「おいピリカ、ところで学校はどうした? 行かないのかい?」


「しまった!」


「気をつけて行くんだよ」


「お父さん、魚忘れないでお願い」


「あいよ」


そう、これが動物と会話が出来る女の子。この物語の主人公ピリカ。


END

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