03
あれから3日がたった。
目が覚めてから感じたのは身体の中に知らない人の血液が流れてるような奇妙な感覚と、喉の渇きだった。
「…夢じゃなかったか」
死んだ記憶がないからか、もしかしたらこれは妄想や夢の類ではないかと期待していたが、そんな事はなかったようだ。
寝ていた体をゆっくり起こした。
かけられた布から出ようとする前に、ドアがひらく。その先にはカナが少しばかり目を見開いてこちらをみていた。
少しばかりの沈黙の後話し始める。
「…起きたのか。…君は魔力への抵抗がありえないほど低かった事が原因だろう。…3日で起きるはずが、私が起きた後も眠り続け今日で1週間になる」
そう言えば身体がだるい。
まあ、繁忙期の時期に比べればそこまで酷くはないように思うが。
それよりも、魔力抵抗とな!?それ弱いと魔法使えないとかそういう…?
ぜ、絶望まったなしじゃないか…!!
1人頭を抱えてうずくまるとカナが心配そうに、話し始める。
「…その、3日後の朝、僕の目は覚めたが、異世界と言う存在がこうも我々と違う事に、整理がつかなく混乱していた。君が寝ている間色々と整理していたが、僕にわかる事は少なかった。…ただ、君の言葉が本当であった事、存在していた事、それは間違いないから、…うまく言えないが、君の安全は僕が保証する、から」
「…魔法は、抵抗が弱いと、使えない…んですか?」
「…は?…あ、ああ、君を見てきたからなんとなくわかるよ。魔法を使えるようになりたいんだな?結論から言うと、魔力への抵抗が少ないと言う事は、実は優秀な魔術師になるためには有利だよ。ただし、自分以外からの魔力へ抵抗する事が出来るようになるまで守ってくれる存在が必要だし、制御も人より大変だ」
「てことは!!使えるんですね!?よかったあぁぁぁ…!!」
よっしゃあ!とガッツポーズをとる俺をカナは呆れていたが、そんな事より今後が楽しみだ!
ファンタジーだぞ、ファンタジー!!冒険だ冒険!!ドラゴンとかいるのかな!?
とワクワクしていると、クスッと笑われてしまう。
「僕は家族とか愛とかよくわらかないけど、普通不安になりそうなものだけどな…。フ、まあ生きる気力があるならなにより」
あまりに美しい微笑みにボーッとしてしまった。よくよく考えたらこんな綺麗な人と同じ屋根の下で暮らすのか!?と思うと緊張してしまう。
そんな俺の気持ちを知らないカナはベットの隣に腰掛け、俺の手を握って…
「…ふむ、脈は少し早いが、問題ないだろう。顔色も悪くない。食欲はあるか?」
「ひゃい!」
体調を調べてくれたらしいが、近いし、緊張フルマックスでカチコチになってしまった。そんな俺にニヤリと悪どい顔をするカナ。美女がするとなんでも様になるなと見当違いな事を考えていたら、思わぬ事実を告げられる。
「あのな、君は勘違いしているようだが、僕は男だぞ?残念だったな?」
「ナ、ナンダッテーッッッ!?…こ、こんな綺麗な顔して男とか、男とか!!!」
「まあ、人の形をとるとそうなる。ただ本質は違う。僕は精霊と人間のハーフなんだ。繁殖の方法も君達とは違うし、男女の価値観なんてものはないが、僕の妻は女性だな。そして、君に言わなきゃいけない事がある」
まさかの精霊さんだった。しかもリア充だった。くっ、これだから顔面偏差値の高いやつは!!しかし、美しいものは男でも女でも目の保養である。
「実は、妊娠しているんだ。」
「…え?」
「…繁殖方法が違うと言ったろう?訳あって妻が産むことはできない。だから、僕が産み育てる事になっているんだが、妻からできれば人のようにお腹に入れてあげてと言われてある。ただまあ、膨らむこともないし産まれる時は光に包まれてでてくる。今はまだここにいる事も感覚が薄く実感もないがな。」
そういって少し困った顔でお腹を撫でるカナ。
しかし、あまりの情報量に頭が混乱する。
美女は男で精霊で妊婦だった。
パワーワードかな???
「い、いやいや、ここは俺の常識は通じない世界。うんうん。よし!カナは妊婦!…えーっと、何か注意することある?人は妊娠すると色々あるぞ。つわりとか!」
妊婦が身近にいないためつわりという言葉は知っていても嘔吐すると言うかイメージ以外知らない。
それに男だし精霊だし、注意しなきゃいけないことの想像がつかない。
「妊娠中は特に問題は…、あぁ、食べ物の好みが変わる、な。子の欲しがる属性を含んだものとかな。光や闇属性を含んだものが食べたいと思うから、おそらく、この子は光と闇の属性をもつのだろう…。あとは、精霊は子を産むと属性が変わる。自分と違う属性の精霊は上位の成人した精霊もしくは適性のある者でなければ見えない。ゆえに子には見えなくなる。」
「え、じゃあカナは…」
「あぁ、僕もこの子を産んだら身体から離れ精霊体になり属性が変わってしまう可能性が。ただ、精霊の血が薄くなっているし妻が特殊な遺伝子の可能性もあって、どうなるかわからないんだ。…そこで、だ。君も何もわからないよりこの世界で生きていく知恵が必要だろう??」
「う、嘘だろそんなっ、……そ、そりゃ教えてくれるならありがたいですけど、子供の扱いなんて知りませんよ?」
「わかっている。だが、もしもこの子が独りきりになってしまったら耐えられない。リズも、僕の妻もこの子には家族を友を愛を与えてやりたいと…。だから、どうか、頼む…。僕がいなくなってしまったら、この子の事を…」
悲しみにくれている顔をした。こんなきれいな人を悲しませるなんて男が廃るぜ!それに、どのみち選択肢はないだろう。このまま右も左もわからず街に行ってもなじめる気がしない。
「…わかった。どこまで期待に添えられるかわからないけど、守るよ。カナが見えなくなってしまったら、親代わりに、カナが見えるなら年の離れた友に。」
そういって、カナと握手を交わす。
「…了承してくれたことに感謝を。そして、悪いとは思っているが、あまり時間がない。君知りたい魔法関係は最後だ。まずは常識から覚えていってもらう。まずは、この本を全部覚えてもらうことからだな。」
カナの手が光るとドサっと本が積み上げられた。幸いにも辞書のような厚みのあるものはなかったがそれでも数がすごい。パッと見でもハードカバーじゃない単行本くらいの厚みのが20冊はある。
しかも、見るだけじゃなくて、覚えてもらうって言ったよな…??
時間は、時間はどれくらいあるんだ!?この量覚えられる自信がないー!!!!
「まあ、そう絶望した顔をするな。絶対とは言えないがだいたい半年くらいは猶予がある。魔法に関しては生活するうえで困らない程度にはなるが教える。それに、とても便利なものがあるんだよ。ネムも向こうでよく飲んでいただろう?エナジードリンクだったか?あれみたいなやつだ。錬金術で作るんだがな…、睡眠時間を濃縮して一日3時間で8時間寝たのと同じにする薬とか、身体を活性化させて座りっぱなしでも筋トレになる草とかな。ほかにもあるが…。あぁ、心配するな。用法容量をまもれば、害はなく最大効率で学習できるぞ」
いい笑顔でカナは社畜の鏡のようなことをのたまう。
「こ、ここでも社畜なのか俺はぁぁぁぁぁー!!!」