俺×恋メイドは(妹)〜The Beautiful Spring Story〜
彼女は突然やって来た。
当時、5歳だった俺にとって、それは、最高の日々の始まりだった。
「おい、高志今日から家にメイドが来るから。」
父はそうとだけ言った。
「メイド?」
言葉の意味を知っていたので少しは理解ができた。
時刻は5時─
チャイムが鳴った。
俺はリビングで遊んでいた。
父が玄関のドアを開けた。
「お邪魔します。」
父ともう一人誰がこっちに来るのが分かった。
リビングのドアが開いた。
「高志。紹介しよう。メイドの上野美春さんだ。」
父の横にいたのは、俺の想像とはほど遠いメイドさんだった。
まず、あのヒラヒラしたメイド服を来ていなかった。
次に…身長が…果てしなく…果てしなく小さい。まるで俺と同じ歳のような気もする。
「どうも、上野美春5歳です。」
「………」
俺は戸惑った。
まぁ、事情は簡単で、両親が両方とも亡くなったので、俺の家が引き取ることになった。メイドは、本人が何か少しでも力になりたいという、いわば自己主張である。けして、俺の父の趣味とかでわない。
彼女は僕の妹になった訳だが(誕生日の違い)初めのうちは、結構敬語を使っていた。けれども、しだいに慣れてきた。
俺は彼女の事を『ハルちゃん』と呼んでいた。
彼女はメイドを意識して『ご主人様』とよんでいた。
今思えば、かなりマニアックなプレイである。
彼女の事で今思い出す事といえば、悲しい時、いつも庭にあった桜の木の前で泣いていたぐらいだ。
しかし、3年後、別れは突然やって来た。
朝起きたら、父がいなかった。ついでに彼女も。
朝ご飯の皿の下。一通の手紙があった。
『ご主人様。ゴメンネ。子供を欲しがっていた、おじいさんの家に引き取られる事になったの。言わないでってお父さんに言ってたの。顔を見ると悲しくなるから、お兄ちゃんが寝ている間に行っちゃった。サヨナラ言わなくてゴメンネ。また、絶対に会おうね。
次は、絶対に突然消えたりしないからね…
お兄ちゃんへ。ハルより』
当時8歳。それは、
人生で一番悲しい出来事だった。
初めて『お兄ちゃん』って言ってもらった。ハルの顔を思い出す。
沸き上がる悲しみ。
あふれだす涙。
どちらも止める事ができなかった。
「絶対に会おう。約束だよ。絶対に…」
今、俺は高校2年生。ハルの事などすっかり忘れた訳…でわないが、まぁ、なんともない。ちなみに、彼女募集中である。
遅刻ギリギリで学校に入った。
2学期の初日にさすがに遅れる訳にわ行かない。
教室に入る。
2学期初め。校長の声を聞くために体育館まで足を運ばせる。
長々とした話しから無事解放された俺は、教室に着く。
しばらくして先生が入って来た。
それまで騒いでいた全員が席に着く。
「え〜まずは、転校生の紹介をします。」
教室にざわめきが起こった。
ガラガラガラ。
ドワが開いた。
入って来たのは、長い黒髪のなんとも可愛い女性だった。男子の騒ぎ声が聞こえる。
彼女は黒板に名前を書いた。
「どうも、上野美春です。」
聞き覚えのある名前。それを聞いた瞬間、脳内でハルの顔と美春さんの顔が一致した。
「ハル!」
気が付くと、俺は席を立っていた。
「お久しぶりです。ご主人様。」
全男子が白い目で俺を見る。
そりゃそうだ。
クラス、いや校内でもトップ級の可愛いさを誇る女性と知り合いで、ましてやご主人様などといったマニアックな発言をさしているのだから…
「それより、なんでお前がここにいる?」
あまりにもあれなんで、話題を変えた。
「本当にご主人様知らなかったんですか!!」
彼女はビックリしている、らしいが今はそんな事よりも、
「『ご主人様』って呼び名はやめろ!」
「え、でも私は貴方のメイドですよ?」
また白い目で見られる俺。
「メイドじゃない、妹だ!」
「じゃあなんて呼べばいいんですか?」
「せめて『お兄ちゃん』ぐらいにしろ。」
「そう呼んでもらいたいんですか?」
白い目がまた俺を…
「あーもぅ!『ご主人様』以外だったらなんでもいい、ハルの好きにしろ!」
場の空気が留まった。
仕方なく、先生が口を挟んだ。
「…えーと、上野さんは、名字は違うけど、谷山(俺)の妹さんという事で…」
休み時間、俺は、なんでハルがここにいるか聞いた。
理由は簡単で、前に引き取ったおじいさんが死んでしまって、またウチが引き取る事になったらしい。
サプライズで俺には内緒で事を進めたらしい。
家に帰った時には、ハルの部屋ができていた。
その後、2年の谷山高志が妹にマニアックなプレイをさしていると言う噂が流れ、誤解を解くのに時間がかかったのは言うまでもない。
しかしまた、妹との同居生活が始まった訳で…
おかげで、朝は学校に間に合う程度に起こされるは、父が行くはずの買い物を二人で行かされるはの最高のようで最低な毎日が送られた。
ハルも、ウチの高校に馴染み始めてきた。可愛さがトップ級のため、当然男子ウケもよく、優しい性格から女子ウケもよかったため、かなりの数の友達が出来た。
部活には入っていないのに、先輩や後輩のとの関係もよかった。
あと、ラブレターをクソくらい貰っていた。
しかも、全部断るとわ…
俺には断る事すら出来ないのに。
まったく、羨ましいかぎりだ。
そんなある春の日のこと─
三学期最後の化学の時間。
実験をじていると、急に隣の班がアルコールをまき散らし、たまたまカセットコンロに引火した。
理科室を炎が襲う。
次々に他の班のアルコールに引火する。
クラス全員退去命令と共に、全員理科室から避難した。その後、火は駆けつけた消防隊によって消火された。
理科室半壊といった程度の規模。
生徒全員ケガ無し。
・・・
ハルがいない。
一緒に出てきたはずなのだが、ハルがいない。
クラス全員でハルを探す。
そういえば昔、聞いた事がある。
走りながら俺は考えた。
ハルの両親は火事で亡くなったと…
それで悲しくなって…
悲しくなって…
俺の脳内PCはあるテキストを思い出した。
・・・
あそこしかない!
ハルは、やっぱりそこにいた。
そう、校庭の桜の木の下の影。
そこでひっそりと座って、ハルは泣いていた。
俺が近付くと、ハルが急に飛び付いてきた。
俺が今言わなければいけない事…、ハルを慰める言葉。いや、違う。俺がいま本当に言わなければいけない事は…
「約束…。約束しただろ。もう、急にいなくなったりしないって。皆、心配してるぞ。」
とっさに思い出したあの手紙の内容…
ハルは、何も言わないまま、笑った。
「まだ…覚えてたんだ。」
春の風で舞う桜の花びらの中、一番、美しかった。
ハルという花びらが…
「美春…か。」
「ん?」
「いい名だよ。まったく。」
「え?」
「いや…なんでもない。」
後日、『禁断の兄妹愛!妹メイドと兄主』という写真付きの新聞が新聞部によって発行された。
もちろん、誤解を解くのに時間がかかった。
ご愛読ありがとうございました。
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また、次の機会にお会いしましょう。