恋の色
「仮面」に関係する作品となっていますので、先にそちらを読んでから読むことを強く推奨します!!
私の名前は「西條 霞」。いたって普通の女子高生……ではないことを自負している女子高生である。
何故ならば、私は西條財閥のただ一人の跡継ぎ娘であり多方面への才能を持っている人間だから。
当然、通っている学校は地元で一番偏差値が高い学校であり、私のような才能あふれる人間は学年でトップの学力があり……。
あったはずなのだった。
初めての試験。全力で挑んだ。誰にも負けたくなくて、一番上だけしか取りたくなくて、そうしなきゃお父さんからの愛を貰えないから。
家族からのプレッシャーなんてもう慣れていたつもりだった。最初の試験で一位を取ることができなかった私へ向けるその視線はとても娘を、愛しい娘を見る目ではなかった。
苦しい。苦しいよ。
でもこの感情は表に出してはいけない。私はすべてを持っている人間で、こんな感情は強者に相応しくないものだから。
だが私は、強者からの、真の強者からの吐き気に耐えて机に向かった。
既に私はおかしかったのかもしれないが、それでも親からの愛しか知らない私にとってそれはとても美しくて、何物にも代えれないものだった。
そして二回目の試験。
私はまたしても敗北したのだった。
一度目の敗北の時は気にもしていなかった一位の名前を私は心に刻み込むように何度も唱えた。
「狩谷 心……」
親からの失望の色は更に濃くなり、それに呼応して私の体からあふれ出す黒い瘴気も濃くなっているようだった。
「愛」が欲しいな。親からの、たった一人に向ける「親愛」が欲しいな。
誰が、誰が私のこの願いを希望を妨げているの?
わかっている。私が悪いことぐらい、これはただの八つ当たりで、強者がこんなことをしないことぐらい理解している。
溜まっている怒りをどこにぶつけようと宙を舞っていた拳は標的を定めたようにピタリと止まった。
「心君」
「え?」
その「え?」は私の声と彼の声が重なったものだった。
お互いの視線が絡む。いや、絡みついた。
彼は、とても綺麗だった。
彼は、私の「顔」を見ていた。
彼の心は、綺麗だった。
背筋にゾクリとした何かが伝った。
それは感動か、否か。
正直今の私にはそんな差異はどうでもよかった。
彼には、何もなかった。
綺麗な虚無が目の中に広がっていたのだ。
私とは違う、純粋な彼だけがそこに無限に広がっているようだった。
造り繕って、絆創膏を貼っている私の汚い心と違う美しい心を彼は持っていた。
突如、私の心に広がったのは汚い感情だった。
こんな綺麗な心に触発された私の黒い心が「犯せ!犯せ!犯せ!」と何度も私に命令してくる。
もし本当に彼の綺麗な心を、私の汚いこの感情で犯しつくしたらどうなるんだろう。
全身に甘美な絶頂が走り廻る。
それは、罠か、はたまた彼はこの感情を受け止めてくれるだろうか。
「いえ、何でもないわ」
彼の不審そうな視線を背中で感じながら、その視線すらも私をいとも簡単に絶頂へと誘うものへと昇華してしまった。
ああ、そうだ。私は完全に敗北した。
彼の虜になってしまったのだから。
ああ、だけれど。私と彼の勝負はここからだ。
彼を私の虜にしたいのだ。
白い心を、私のどす黒い本能で食べつくしたい。
これはただの欲求。故に甘美で、強者らしいのだ。
既に私の頭の中に親からの愛なんてものはどうでもよくなっていた。
私は彼から愛を貰うのだから。
だから、
だから、
「私を失望させないでくれよ?心君」
そう言って仮面を外そうとしている彼女の顔は、本能に塗れた黒だけが塗ってあった。
仮面は続くよどこまでも!!