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Don`t Read(人生観)  作者: 安川瞬
10/19

愛と憎と造と哀

愛を求めた。


憎悪を握った。


造られた世界で


哀を笑った。

 追いかける。


 足がもつれる。


 目の前で彼がこける。


 自分の失態に彼が絶望の表情を浮かべる。


 違うのよ。と彼の耳元で囁きたかった。


 ――ワタシハスベテヲシッテイル


 貴方は私の罠に引っかかったの。


 ――アナタハユウドウサレタ


 こけた彼の喉元を撫でる。


 ――アナタノノドガオイシソウ


 恐怖に染まる顔。


 ――ニゲタアナタガワルイノヨ


 そうして、私は、彼の、目に、ナイフを、突き立て……。













 悪い夢だった。

 汗でベットがびっしょりに濡れるほどの悪夢。

 立ち上がる気力すら湧かず、腰かけたまま私はしばらく佇む。

 立つ気力はどこにも残っていなくて、心地の悪い脱力感が全身を襲い、囲っていた。


 あの夢は何??

 私はいったい何をしていた??

 彼は、彼は……。


 ――コウセイクン……


 湿った声が落ちる。小さな声は跳ね回り、飛び回り、反射して私の耳に戻ってくる。


 彼を、彼は、確かにこうせいくんだった。

 私の好きなこうせいくんで間違いなかった。

 見間違うはずがない、好きな人なのだ。見間違ってはいけないだろう。

 彼の身長、体重、趣味、好きな食べ物、好きな本、彼が……執筆をしていること。彼の第一のファンであること。彼はそれを知らないこと。彼には……本当は、彼女がいること。


 ――ソノカノジョヲコロシタコト






 あはっ






 トリップしかけた意識に舞い降りたのは先ほどの景色。

 私は好きな人に何をしていた??

 どうしてあんなことをした??

 殺す必要など……論外。私は彼と一生を秘かに暮らしたいだけのだ。


 結婚式場も決めている。生まれてくる子供の名前も決めてある。

 男の子が生まれるかな。女の子が生まれるかな。

 いや、勿論両方とも産みたいというのだったら、私は何度も彼の体を受け入れるけど。





 あはっ





 トリップした私を次に襲ったのは日光だった。

 東から昇るその光に少し煩わしい気持ちを抱いてしまうけれど。いやな夢を忘れるぐらいの心地の良い抱きしめるような光だったから許してやろう。


 あぁ……彼のことを考えていたら、彼に会いたくなってしまったではないか。

 濡れそぼったシーツを交換して、一度風呂に入って、私にワタシというゲンソウを流し込んデ。


 アァ、イマカラアイニイクヨ。











 え。

 隣にそいつは居た。


 確かあれは。生徒会長。

 私と彼の愛の巣である学校に蔓延る悪の存在。


 何を話しているの?

 ねぇ。そいつは危険だよ?


 ねぇ。今、私の名前口にしたよね?


 ねぇ。なんで?ねぇ、私の名前を他人に向かって出さないで。嫌だ。嫌だよ??


 ねぇねぇねぇねぇねえねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇえねえねえねえねえねえねえねえねえねええねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ。


 飛び出す。

 無意識のうちに取り出したアクイのソレを突き立てる。


 殺さなくちゃ。

 きっと、彼を、


 きっと彼に何か悪いことを囁いたんだワ!!


 サンッ。


 軽い音。何かを鋭い何かで切った小気味のいい音。


 降り出した赤い雨を浴びながら、私は、歩く。


 何かが、頭の中でフラッシュバックする。


 夢?


 夢。


 夢だ。


 これはきっと夢だ。


 夢なのだろうか?


 夢ってなんだ?


 夢を探して。


 夢にこぎつけて?


 夢を?


 夢が。


 夢が目の前に。


 喉元を優しく撫でる。


 元から、仕掛けられていたような、そんな都合のいい罠に引っかかった彼の。


 頬を舐めて、


 ――ニゲタアナタガワルイノヨ


 そう呟く。


 まるでそれが魔法の文章のように。


 突き立てられたナイフが分解される。


 これは夢だった。


 正夢であり、


 予知夢であり、


 同時に現実でもあり、


 未来でもあり、


 既に過去の一部となった。


 これは今から起きて、これからも起き続けて、今までも起き続けていた。

 そんな何の変哲もない時間の異常。


 貴方を愛し続けたい私が選んだ。結末――。











 悪い夢だった。

 汗でベットがびっしょりに濡れるほどの悪夢。

 立ち上がる気力すら湧かず、腰かけたまま私はしばらく佇む。

 立つ気力はどこにも残っていなくて、心地の悪い脱力感が全身を襲い、囲っていた。


 あの夢は何??

 私はいったい何をしていた??

 彼は、彼は……。


 ――コウセイクン……





 ――アクムハオワラナインダヨ??

時間

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