第九話
エステリアの王、と呼ばれた。
その言葉の意味が分からず、優はただ立ち尽くす。
もちろん単語の意味は分かるのだが、どうして自分が王と呼ばれるのかは
理解出来ない。
この部屋にいる他の4人、リアーナやビャクヤに目で助けを求めるが黙ったままだ。
一様に押し黙る状況の中、真っ先に口を開いたのはファリエラだった。
「…………ぷひょっ……ぷ……ぷははは!無理じゃ!もう耐えられん!!」
盛大に吹いたが。
「ファリエラ様!」
「うるっさいのう……おぬしが「ファリエラ様、今日は大事な日でございます。
くれぐれも地を出さぬ様、お願い致します」とか言うから、耐えたんじゃぞ?」
「耐えていないじゃありませんか」
「さーて、元の姿に戻るとするかのう」
「きっちりスルーしやがりましたね、ファリエラ様」
ふざけてるのか、と思える口調で喋っていた霧が一瞬でその姿を変化させる。
身長130cm程の少女、ふわりとした金色の髪の毛、栗色の瞳に長い睫毛、
絵本の童話に出てきそうな姿の女の子が、こちらに笑みを浮かべ、優の前に
現れた。
「初めまして……いや、久しぶり……とも違うか。
妾の名はファリエラ。エステリアとの契約により、この地を守っておる精霊じゃ」
いや、どう考えても初めましてなんですが。
というか、精霊って何ですか?やっぱりファンタジー?
戸惑う優にファリエラは言葉を続ける。
「ふむ……何も分かっておらぬ様じゃの。リアーナ、優には何も?」
「はい。出来ればファリエラ様に全てをお話いただければ、と思いまして」
「くっ……まあ、よい。恨まれるのは妾だけで十分じゃからのう。
優、全てを教えよう。おぬしが何故ここに呼ばれたか、王と呼ばれる理由……
そしておぬしが何者なのかを」
「ちょっ……なんだそれ?なんでこの世界に呼ばれたのかは知りたいところだけど、
俺が何者なのか……って、俺は普通の高校生だぞ?」
「そう、おぬしは「あちら」の世界ではただの高校生じゃ。いや、ただの……というには
少しばかり生まれが違うのではないか?両親がおらず、孤児として育ったのじゃろう?」
「……!なんで知ってる?」
「じゃから全てを話そう、と言っておるのじゃ。どうじゃ?知る覚悟はあるか?」
先ほどのふざけた口調から一転、真面目な顔になったファリエラに
優は気圧される。
しかし、覚悟も何も優は分からない事だらけだ。情報は少しでも多い方が良い。
しかも……自分の生まれについて知っている者が目の前にいて、全てを話すと言っている。
ファリエラの言う覚悟、という事について気になった優だったが、そうも言ってられない状況だ。
「わかった。話してくれ……ファリエラさんの知ってる事を全部」
「ファリエラ、で良い。おぬしは妾の大事な友人の忘れ形見でもあるからのう。
他人行儀は好かんよ」
「ちょ、忘れ……!俺の親を知ってるってのか!?」
「ああ、知っておる。おぬしの母親は妾の初めての友人、そして父親は
この国の前王じゃ」
頭をハンマーで叩かれた様な衝撃を感じた。
今まで、自分を捨てた親の事なんか考えたくもなかった。
物心ついた時から、優には親も兄弟もいなかったし、なにより
孤児院の先生や、同じ様な境遇の子供達が支えてくれた。
辛くなかった、と言えば嘘になるかも知れない。
孤児という事で中傷を受ける事もあったし、奇異の目で見られる事もあった。
それでも優は、何とか挫ける事も無く成長してきた。
それがなんだ?
今になって父親が異世界の王様?
母親が目の前の女の子の友人?
ふざけるな、と叫びたかった。それでも叫ばなかったのは、ファリエラの
表情に戸惑ったからだ。
悲しい?悔しい?少なくとも、優はこんな表情を周りの人間がした所を
見た事が無かった。
小さく深呼吸し、優は尋ねる。
「……どういう事なんだ?詳しく聞かせてくれ……」
優は覚悟を決めた。