第八話
「お待ちしておりましたぞ、主殿」
城門をくぐった先で、馬車から降りた優達を迎えたのはビャクヤだった。
周りにはもちろん衛兵がいるが、目の前に喋る虎がいても全く気にした様子が
無い事から、このビャクヤという虎はシルヴァ城ではそれなりに認知された
生き物なのだろう。
それよりも優は、自分に向けられている周りからの視線が気になって仕方なかった。
好奇の目もあれば明らかな猜疑の目もある。
いたたまれなくなった優は思わずリアーナに助けを求める。
「なあ……やっぱり俺って場違いじゃないか?視線が痛いんですけど……」
「お気になさらずに……というのは無理かもしれませんね。ただ、彼らを
悪く思わないであげて下さい。あれは愛国心の表れでもあるのですから」
最後の「愛国心」については疑問が残ったものの、ここはリアーナを信じて
着いて行くしか無い、と判断した優はリアーナやセリスの後を怯えながら
着いて行く。そして一行はやがて、玉座が2つ置かれた広間に辿り着く。
そう、まさに優がゲームなどで見た、いわゆる「謁見の間」の様だった。
そこには鎧やローブを纏った、20人程の人間が並んでいた。
彼らも衛兵と同じく、優の方を見ては「あれが……」「いや、しかし確証が……」
などと小さい声で話している。どうにも居心地が悪い。
そんな雰囲気を断ち切ったのはリアーナの一言だった。
「お待たせしました。これより奥の間で儀式を執り行いますので、いましばらく
お待ち下さい」
その言葉を合図に、ざわついていた者も口を閉ざす。
「ちょ、リアーナ……さん?なんか、ただならぬ雰囲気になってるっぽいんですけど。
ちなみに奥の間って?儀式ってなんなのかな?」
「大丈夫です。儀式といってもあのお方のお印を頂くだけですよ」
慌てる優に、リアーナが微笑む。
後ろからはセリス、ビャクヤ、シキの三人も「ご心配にはおよびませんぞ、主殿」
「が……頑張ってください、主様……」「なーに、骨は拾ってやっからよ」と、
やや一名を除いて励ましの言葉をかけていた。
「おい、こら。今、骨がどうとか……」
「空耳でしょう」
「リアーナさん?今、明らかにセリスが口に出してましたよね?
どういう事なんですか。俺は帰りますというかとっとと帰らせろ頼むまじで」
身の危険を感じずにはいられなかった優は、良い具合に壊れ始めた様だ。
そして、その場から逃げ出そうかと考えた瞬間、先頭を歩くリアーナが立ち止まり
重く厚い扉を開いた。
「さあ、優様。お入り下さい」
「いやだ。絶対帰る。死にたくない!」
「どうやってお帰りになるのです?そもそも、どこへ?」
するりと後ろに回り込まれ、背中を押される。
森での発言を思い出すべきだった。こいつは黒い部分がある少女だったと。
そして有無を言わさず扉が閉められ、涙目になる優の前にその存在があった。
白い人型の霧。
優がここに飛ばされた原因、そして優の過去を知る者。
その名はファリエラ。
「来たか……エステリアの王よ……」