第三話
「おー、無事だったか」
呑気な女性の声に思わず振り返る。
そこには20歳前半くらいだろうか、女性にしては大柄な褐色の肌をした人間がいた。
長い赤毛を後ろで一つに縛り、体は軽装の鎧の様な物で飾られており、
その瞳は髪と同じく燃える様な赤色だった。
鼻筋が通っており唇の形も良い。もう少し小柄であれば10人中8人程は
振り返りそうな女性だ。
ただし、その頭に乗ったものと腰から出ているものを除けば、だが。
そう、女性の頭には狐や狼などについてる耳、そして腰からは毛並みの良い
尻尾がふさふさと揺れていたのである。
「セリス、口の聞き方に気をつけよ。主殿に失礼だ」
「あ?別にいいじゃんかよー。まだコイツに決まった訳じゃねぇんだし」
セリスと呼ばれた女性は悪い事など全くない、と言いたげな顔で口を
尖らせる。
「大体なー、シロは細けぇんだよ。いちいち。あんま気にしてっと毛が無くなるぞ?」
「なっ……!我のこの毛並みの美しさは、あのお方から与えられた物ぞ!おぬしはあのお方を
愚弄するか!」
「あー、うっせうっせ。そういう所が細けぇっつってんだよ。未だに義理堅いこって」
「まだ言うか!大体シロという呼び方も気にいらんのだ!我にはビャクヤという名前が……」
「ほい、この話は終わり。とりあえずコイツを連れていこうぜ。リアーナも待ってる事だしな。
おい、おま……えーっと名前は?」
目の前にある現実を受け入れられず、セリスとビャクヤの言い合いを
ただ見つめるしかなかった少年だが、セリスに尋ねられた事で意識を
取り戻した様だった。
「あ……えと、優です。わかりますか?ユ・ウ」
「あんま馬鹿にすんな。よっしゃ、優。着いてこい」
「へ?なんで……いや、そもそもアンタらは何者なんだ?なんで虎が喋る?
人間なのに尻尾が生えてる?そもそも、ここはどこなんだ?」
ついさっきまで夢だと割り切っていたのだが、ここまでリアルだといよいよ
現実だと受け止めざるをえない。
そう思った途端、疑問を解消しておきたくなった優は続けざまにセリスへと
質問を投げかける。
「あーあーあー、とりあえず着いてこい。話は後でゆっくりとな?
後ろに転がってる様な奴らの胃袋に収まりてぇってんなら別だけどな」
0.5秒で着いて行こうと決意する優だった。