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第十四話

「…………なんだって?」

ファリエラの言葉に優は思考を止まらせる。それも無理はない。

いきなり国王様ですなんて言われて、ああそうですかなどと言えるほど柔軟な思考を優は

持っていないのだから。

「聞こえなかったのか?おぬしにはこのエステリアの国王になってもらおうと言っておるのじゃ」

「いや、だからね?全く意味分かんねえんすけど。大体なんで俺が国王なんだよ」

「それは私から説明させて頂きます」

リアーナが一歩前に進み出る。

「現在エステリアには王と呼ばれる方はおりません。前王……アイデル様と王妃の優美様が

亡くなられ、次期候補であった優様は行方不明……もちろん、一時エステリアは混乱しましたが、

ファリエラ様と家臣の方々の尽力により平穏を取り戻す事が出来ました。

それでも民は新たな国王を求めています。このエステリアの事を考え、アイデル様と優美様の

意思を継ぐ存在を……。もちろん勝手な事を申し上げているのは承知しています!

それでも……私は優様に国王となってもらいたいのです……」

途中でこらえきれなくなったのか、嗚咽混じりで話すリアーナを見て優の心は軽く締め付けられた。

しかし意を決してリアーナに言葉を返す。

「…………リアーナ。本当は続きがあるんじゃないのか?」

「……っ!」

まるで心の奥底の闇を指摘された様に優の言葉に対しリアーナは目を見開く。

「だって、おかしいだろ?ここに来る時、町はそこそこ栄えていた。リアーナが行政のトップにいる。

それに話を聞くとファリエラや家臣の城の人達で何とか持ちこたえた国なのに、いくら王子が

生きてたって言っても右も左も分からない子供に期待する事も無いだろ?もちろん、国の人達は

王子が生きてましたー、なんて言ったら喜ぶかも知れないけど、人気があったのはアイデルって

王様と優美さんだ。俺に期待してる訳じゃないはずだしな。

俺が国王になる必要は他にある……そうじゃないのか?」

ここまで見てきた事や聞いてきた事を自分なりにまとめ、優は言葉を紡ぐ。

「優、リアーナを責めないでやってくれ。妾がそうして欲しいと申したのじゃ」

リアーナと優の会話にファリエラが入ってくる。

「城の皆や国の民が国王を望んでいるのは本当じゃ。現に家臣の一部はおぬしが生きておる

事を聞いて涙を流す者もおったくらいじゃ。騎士団や国の皆はおぬしの事はまだ聞いておらんがな」

リア−ナの言葉が嘘ではなく、本当の事だと強調するファリエラに優は思う。

ああ、この精霊は偉いくせにリアーナの事を、そして自分の事を心配してやがる。

優が傷つかない様に、リアーナが嘘つきだと思われない様に。妙に人間臭い奴だ、と優は考えながら

ファリエラに問う。

「そんで?何か心配事でもあるんだろ?その為に俺が必要になった……そういう事だろ?」

「うむ、その通りじゃ。現在メルキア大陸にあるいくつかの国は平穏を保っておる。

表向きは……な」

「いきなりキナ臭くなってきたな、おい。頼むから戦場に突っ込んでこいってのは勘弁してくれよ?」

「今の所それは無いはずじゃ。ただな……メルキア大陸の一国、ザグルが不穏な動きをしておるという

情報が入っているのじゃ。もちろん今すぐ戦争を起こすとか、邪神の復活とかそういう事は無い。

それは精霊である妾を信じよ」

「ザグル……要はその国が喧嘩売ってくるかも知んないから国王を……て事か?」

「そういう気持ちが無い、と言ったら嘘になるんじゃがな、それ以上に妾が突き止めた事が

今回の件に関係しておるのじゃ」

「突き止めた事?」

「アイデルと優美が襲われた件に関してじゃ」

「!?」

ファリエラの発言に驚きを隠せない優。まだまだ実感は湧かないが一応の両親である二人が

もしかしたら故意で殺されたのであればーーーーおそらく許せないだろうと優は感じていた。

「妾も確証はまだ持てずにおる。じゃから今すぐザグルに戦争を仕掛けてどうこう……という

訳には行かぬがな。それと……これが重要な事じゃが、優。おぬしは元の世界に帰りたいか?」

「リアーナの前で言うのもあれだけどな……正直今すぐに帰りてえ。いきなり自分がこの世界で

生まれたんです、国王様です、なんて言われても困るし。それに俺は皆が期待する程、強くなんか

ねえよ。ってか、俺は帰れるのか?そこが一番重要なんだけど」

「優、あまり自分を卑下するでない……まあ、その辺りはその内に分かるじゃろ。

それでな、先ほどの話で原因不明の光がおぬしをチキュウに飛ばした、と言ったじゃろ?

おそらくあの光に関する情報が得られればおぬしをチキュウに戻せる可能性は高くなる」

「それとザグルうんぬんが関係してんのか?」

「そうじゃ。ザグルの動きを探っておった妾の眷属の話によると、あの時見た光とそっくりな

ものをザグルで見た、というのじゃ。もちろん確証がある訳では無いが……今はそれに賭けるしか

あるまい」

「なるほどな……ところでそのザグルってとこには直接行けないのか?

王様がいるんなら話も聞けるんじゃないのか?」

「殺されたいのなら一人で行くが良い。ちなみにザグルとエステリアに国交は無い。

あそこはメルキア随一の軍事大国じゃからな。しかもほとんどの国に対して歩み寄ろうとは

しておらん」

まるで昔の日本が鎖国をしていた様な感じだろうか?それなら下手に乗り込んでいっても

どうなるか分からない。ここはファリエラの言葉に従った方が無難だな、と優は思った。

「なら、すぐ帰るのは無理って事か。まあ、話の流れから簡単には帰れなそうだって

思ったけど……しばらくはこっちに厄介になるしかないか」

「おぬしは変な所で度胸が据わっておるのう。普通なら発狂してもおかしくない状況じゃぞ?」

「そんなん言われても。まあ、小さい時から色々あったからな」

褒められてるのか怪しいところだったが、前向きに捉えておこうと思う優。

「あ、あの……優様?」

先ほどまで涙を流し、ファリエラと優の会話を聞いていたリアーナが申し訳なさそうに

優に話しかける。その表情にもどきり、としてしまう優だったが。

「ん?どした?」

「えと……その……それで、国王には……」

「ああ、その事なんだけどな。ほんっと悪いんだけど、保留にしておいてくれないか?

俺自身まだ覚悟が決まってないってのもあるし、何よりそんな奴に上に立たれる国の皆が

納得しないだろ」

「そんな事は!皆はきっと優様をお認めになります!というか、ならない者は私が責任持って」

「ストップ!すとーっぷ!また何かよからぬ事考えてただろ!」

さらりと黒い部分を除かせたリアーナを慌てて静止する。

優は、実はエステリアの中でリアーナが一番の要注意人物なんじゃないかと疑ってしまう。

「あのな、リアーナ。お前の言いたい事も分かるけど、まずは次期候補って事にしといて

くれないか?もちろん行方不明だった王子って事もばらしてくれて構わない。

その方が俺も期待に応えようとプレッシャーがかかるからな」

「それでは……!」

「ああ、一応帰れるまでは王子って事で頑張ってみるわ。途中で皆から見捨てられるって

可能性もあるけどな」

「せいぜい努力してみせるのじゃぞー」

「おい、そこの腐れ精霊。口の聞き方に気をつけろよ?」

「いきなり上から見下しおったなっ……!」

「ふふっ、良いお相手が出来ましたね。ファリエラ様」

「どこをどう見れば……まあ良い。優、これからは何かと辛い思いをさせるかも知れんが

耐えるのじゃぞ?妾の命はおぬしに助けられた。この身は全ておぬしの好きに扱えい」

「いや、その言い方はどうかと。っつか、そんな起伏の少ない体はちょっとな……」

「リアーナ。今すぐこやつを拷問部屋に連れていけい。生まれた事を後悔させてやるわ!」

むきー、と地団駄を踏むファリエラだったが、小学生くらいの見た目では優の指摘も

もっともだった。そっち方面の趣味を持つ人達から見れば、ど真ん中ストライクな容姿なのだが。

「よっしゃ、話はまとまったみてえだな。っつうか眠すぎて死にそうだったぜ」

状況を静観していたセリスが体をコキコキと鳴らしながら歩み寄ってくる。

「なあ、俺の記憶が正しければ完全に寝てた気がするんだが」

「黙れこら。さっそくリコールすんぞ?王子様」

ニヒルに笑い軽口を返してくるセリス。そこにビャクヤとシキも混ざってくる。

「はっはっは、やはり主殿は胆が据わっておられる。これからはこのビャクヤ、全身全霊をかけ主殿を

お守り致しますぞ」

「よ……よろしく……おねがいします……」

「ああ……お前ら……辛かったろ?なんか色々と待たせてごめんなぁっ……!」

なぜか分からないが随分と会っていなかった感覚のビャクヤとシキに向かい、大粒の涙を流す優。

「主殿!?なんで突然泣き出すのですかな!?しかもそんな哀れみの目でっ!」

「いや……やっと話に出て来れたお前らが不憫で……ううっ」

「意味が分かりませんぞ!?」

「それはそれとして。リアーナ、セリス、ビャクヤ、シキ……それからファリエラ。

こんな俺だから迷惑もかけると思う。でもこうやって会えたのも何かの縁だ。

これから宜しくな?」

「皆を代表して感謝致します、優様。それと…………宜しくお願い致します」



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