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第十三話

後から行く、と言ったファリエラはその日を忘れない。

血だらけで横たわるアイデル姿を。自らの命と引き換えに、優と少女を守りぬいた優美を。

そして、この状況に気づかず呑気に森に向かっていた自分の愚かしさを。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ファリエラがその空気の乱れを感じ、森の中心部に着いた時には

すでにアイデルと魔物が相打ちになった後だった。

自分は精霊だから理解出来ないと思っていたが、いつかアイデルが言っていた

血の気が引く、という感覚はこういう事なのかも知れないと思った。

だがファリエラはもう一つの事実に気づく。


「優美!!」


そう、まだ優美は生きている。しかしファリエラには分かってしまった。

それは小さな、本当に小さな命の残り火でしかない事に。

「くっ……!まだじゃ!大丈夫じゃ、優美!」

「……ファリエラ?……優は……?女の子も無事かな?」

「無事じゃ!だからしっかりするのじゃ!」

「…………アイデルは……アイデルは?」

「……っ!」

すでに魔物と相打ちになり、絶命しているアイデルの事を聞かれ

ファリエラは戸惑う。その反応を見て優美は理解した。

「そう……駄目だったんだ……」

「優美!」

「ごめんね、ファリエラ……あたしも駄目みたい……」

「今、妾の力を分けてやる!じゃから諦めずに頑張るのじゃ!」

「ううん……自分の体だもん、分かるよ……」


涙が流れた。自分は精霊、涙など流せない、流す訳が無いと思っていたのに。


「優美!優美ぃっ!」

「あのね……お願いがあるの……聞いてくれる?」

「そんなもの、後でいくらでも聞いてやる!じゃから!じゃからっ……!」

「優の……優の事…………お願いね……」

なんという人間だろう、とファリエラは思う。自分が死の淵にあるにもかかわらず、

先ほどから自分以外の事ばかり心配しているではないか。

改めてファリエラは、この人間が自分の事を「友」と言ってくれた事に

胸が締め付けられる。

優美の呼吸が粗くなり、その体から生気が抜けて行くのを感じていた

ファリエラだったが、ふいに優美の体の異変に気づく。

淡い光が辺りを照らし始め、木々もざわめきを増して行く。

「これは……どういう事じゃ?誰が操っておる!」

光は徐々に強くなっていき、優と少女を抱きかかえた優美の体に集まっていき、

その輝きを一段と強くした時、辺りを光で染めてしまう様に弾けた。

「…………っ!」

光が収まった後にファリエラの目の前にあったのは、冷たくなった優美と、

気を失っている少女だった。

「優美……優美……」

変える事の出来ない現実にファリエラは嘆くばかり。

だが、優美の最後の言葉を思い出し、さらなる絶望を知る事になった。


ファリエラの瞳には優の姿は映らない。

まるで最初から存在などしていなかった様に。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……とまぁ、これがおぬしの過去であり、両親の出会いと最後じゃ」

「…………」

「なぜおぬしが今まで優美がいた世界に飛ばされていたのかは、妾にもわからぬ。

あの光が何かしらの原因を持っていると考えるのが妥当じゃが……とにかく妾は

この世界の隅々を探した。しかし、おぬしを見つける事は出来ずにいたのじゃが、

昨日まるで何かが繋がった様に、おぬしの存在を知る事が出来たのじゃ」

「…………理解出来ない話ばっかりで、頭ん中が追いつかねえよ」

「……無理も無い。じゃが、これだけは分かってくれ。おぬしの親は決して

おぬしを見捨てたりした訳ではないと。頼む」

唇を噛み、うつむくファリエラの姿を見て優もいたたまれない気持ちになる。

だが、それより自分の置かれた状況や出生の秘密が、優の心に重くのしかかっていく。

「……そういえばさっき言ってたファリエラの罪ってのは何だってんだ?」

「うむ。セリス」

今まで口を閉ざし、話を聞いていたセリスにファリエラは促す。

その目を見てセリスも意味が分かった、という様に腰に下げた短刀を投げる。

受け取ったファリエラはそのまま優に手渡すが、意味の分からない優は

ただファリエラの真意を探る。

「どういう事だ?」

「そのままの意味じゃ。優美とアイデルを死なせた事、おぬしを守れなかった事、

妾の罪は海よりも深く山よりも高い。その刀で妾の首を落とせ。それが妾に出来る

唯一の償いじゃ」

「!?」

「なに、普通の人間なら不可能じゃが、おぬしなら可能じゃ。さあ、はようせい」

「馬鹿いうなよ……出来る訳ねえだろ!?」

「しかし約束も守れず、土地も守れなかった妾だけがおめおめと生きておるのは

今日の日の為。おぬしには妾を断罪する権利があるのじゃ」

そこで再びこの場を沈黙が支配する。優はもちろん、ファリエラも同じ姿勢のまま

動こうとしない。

「ファリエラ様、あなたは優様を苦しめたいのですか?」

「リアーナ、おぬしは黙っておれ。これは妾と優の問題じゃ」

「それが間違いなのです。もし、ファリエラ様が償わねばいけないのであれば、

その時は私の方が先に首を落とされなければなりません」

「やめんか!リアーナ!」

「どういう事だ?リアーナ?」

二人の会話を聞いていた優は意味が分からず、リアーナに問いかける。

ファリエラは顔を上げ、リアーナを睨みつけている。


「今のお話の中で助けられた少女……つまり、優様のご両親である優美様と

アイデル様が命を落とす原因となった人間……それが私です」


リアーナの発言に優はまた戸惑う。目の前のファリエラはリアーナを

睨んだままだ。

「私は……私のせいで優美様とアイデル様はお亡くなりになりました。

私があの日、ふらふらと森の中に入らなければ……私が外に出なければ……」

「リアーナ、おぬしは黙っておれ。二人を守るのは精霊である妾の役目じゃ。

そして守れなかった妾を優は責める権利がある」

「いえ、あの事件は私の責任です。優様、責めるのであれば私を……どのような

罰でもお受け致します」


「いいかげんにしてくれ!」


優の怒声が響き渡り、ファリエラとリアーナはその場に固まる。

苛立を隠せない優はさらに言葉を続ける。

「ちょっと待ってくれ、二人とも。正直話が唐突すぎて訳分かんねえんだよ……、

ちょっと整理させてくれないか?まず俺は地球で生まれて育った孤児だと思ってたけど、

実はこの世界……ガリウスの生まれで、父親はこのエステリアの王様、母親は地球から

俺みたいに飛ばされた優美さんって人なんだよな?」

「うむ、優美は確かに「チキュウ」の「ニッポン」で生まれたと言っておった」

「そうか……んで二人は森で襲われていたリアーナを助ける為に……俺も助ける為に

魔物と戦って死んだ。その時、俺は地球に飛ばされた……で合ってるか?」

「そうじゃ。原因は精霊の妾にも分からぬがな」

「んで、そん時の責任がどうのこうのって事で二人は言い争ってる……と」

そこで優は少し考え込む動きを見せ、口を開いた。

「ってか、ファリエラもリアーナも何も悪くねえじゃねえか。っつうかな、

正直言うと会った事も話した事もない親だからな。実感が湧かないんだよ。

それなのに責めろって言われてもな……それに話を聞いてりゃどう考えても

事故じゃねえか。アンタらを責める事は出来ないだろ」

「しかし!それでは……」

「そうじゃ!妾は償わなければいかんのじゃ!」

「……償い、ってんならもう十分なんじゃないか?アンタらは今まで二人の事を

忘れてなかった。自分のせいだ、って責め続けながらな。俺に責めるつもりも無いし、

権利も無いよ」

ファリエラとリアーナは優の言葉をうつむきながら黙って聞いている。

まだ納得はしていない様だったが。そして再び沈黙が訪れようとした時だった。

「はいは−い。小難しい話はこれで終わりー。ファリエラもリアーナも、もう良いだろ?

優もこういってるんだしよ、それで良いじゃんか。それよりも優をどうするか、だ」

セリスが相変わらずの口調で空気を壊してくれる。

ただ、優には助け舟だったのかセリスの方に目をやり「ありがとう」と口の動きだけで

セリスに感謝を告げる。

「優様……寛大なお心遣い、感謝致します。このご恩は私の命に代えても返させていただきます」

「リアーナさん、それ結局変わってないっす。死んじゃ駄目です」

漫画や映画で出てきそうな台詞を放つリアーナに思わず優が突っ込みを入れる。

「妾はまだ納得できんが……優がそう言うのなら従うしかあるまい。なんせ優は妾の

契約主じゃからな」

「そうですね……これでこの国も更に良くなりますね、ファリエラ様。

国民の皆もあのお二人のお子、となれば諸手を上げて喜ばれます」

「そうかあ?森の中で逃げてるこいつを見たら不安になったぜ、あたしは。

ほんとにこいつで大丈夫なのかよ?」

先ほどまでおとなしかったファリエラやリアーナと共にセリスが会話を続ける。

しかし黙って聞いている優の耳には、三人が何を言っているのか理解が出来ない。

契約主だの国民が喜ぶだのと話しているが、いったい何の事だろうと問いかける。

「あのー、皆さん?説明して頂けると助かるんですが……。契約だの大丈夫なのかだの、

意味が分からないんすけど」

その言葉を聞いてファリエラがキョトンとした瞳で優を見る。


「何って……おぬしの事じゃろうが。エステリアの国王であるおぬしのな」

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