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第十二話

アイデルと優美が出会って2年、出会いこそ強烈なものだったが

少しづつ愛情を交わす様になった二人は、自然と結婚という道を選ぶ事となる。

国王の婚姻に、周囲の反対もあるにはあったが、この頃には優美の破天荒でありながら

的確な仕事能力、精霊の巫女としての働き、何より家臣や国民との社交性が優れていた

事により、目立った混乱も無く優美はエステリアの后となる。

本人は「柄じゃない」と言っていたが、アイデルを愛していたし、すでにエステリアに

骨を埋める覚悟も出来ていた。

そして二人は一つの宝物を授かる。

優の事である。

エステリアは世継ぎの誕生により歓喜に包まれた。

国民の誰もが、この三人には幸せになって欲しい、そう願っていた。

しかし、それは突然破られる。


ひとつの悲劇によって。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


優が誕生して10ヶ月。

アイデルと優美は小さい優を連れて、あの森へと来ていた。

そう、二人が初めて出会ったあの森に。

この日、ファリエラの「充電に行くのじゃー」という要望もあり、

それなら優にも森を見せてやろう、という事になったのだった。

「ほーら、ゆうくーん。ここでパパとママは初めて会ったんでちゅよー。

それはそれは、素敵な出会いだったんだから」

「あの衝撃的な対面を「素敵」と呼べる君を改めて尊敬するよ」

「うっさいわねー、男のくせにグダグダと。後でちゃんと謝ったでしょうが」

「あれで!?「いやー、そっちも喧嘩売ってきたんでしょー」とか言ってたよね!?

謝られた記憶がないよ?しかもメインはファリエラが悪口言ったからでしょ!?」

「あ、ゆうくん。あそこらへんだよ!ママはあそこで行き倒れちゃったんでちゅよー」

「その華麗なスルーに馴れた僕を褒めてあげたいよ……」

げんなりするアイデルを尻目に優美は、我が道を行く。

そういう所もひっくるめてアイデルは優美を愛していたので、何も言えなかったが。

「そういえばファリエラは?」

「ああ、後で来ると思うよ。先に行っててくれって」

「あんにゃろ……自分で言い出したくせに……」

「まあまあ、いつもの事だしね」

「くっそう……お得意の「誰にでも優しくて困っちゃう病」か……」

「ねえ、なに?その今考えました、みたいな病名。しかも何の病気なんだよ、それ」

「いーえー、アイデル国王陛下は国民の皆さんのアイドルですからねー。

勘違いさせるのが大変お上手ですし?そりゃ、城下町の踊り子ちゃんにまで優しく

しちゃうから?モテモテでよござんすねー」

「いやいやいやいや、全く意味が分からないし」

「分かってないから尚更問題なのよ。いいでちゅかー、ゆうくーん。ゆうくんは

パパみたいな浮気者になったら駄目でちゅからねー」

「うわあ、明らかな言いがかりなはずなんだけど、どうしてだろう?涙が出てくるよ……」

いつもの様に優美の尻に敷かれ、二人は歩き続ける。

そろそろファリエラも来るだろうか、それまでもう少し、この親子水入らずの時間を楽しもう。

アイデルは最愛の伴侶と、抱かれる我が子を見つめ、幸せを噛み締めていた。

その時、静かな森に一つの声が響く。

悲鳴、それも小さな子の悲鳴だ。

「アイデル!」

「優美はここにいるんだ!」

男の自分よりも先に、声のした方向へ駆け出そうとする優美を制し、アイデルは走り出す。

何よりも、生まれて一年にも満たない我が子が心配だ。

森の外に待たせてある衛兵を呼びに行く時間は無い。

アイデルは森の中を走り、声の主を見つける。

まだ4、5歳の女の子が地面に倒れている。その小さな命を無惨に断とうとしている存在。


それは異形の魔物だった。


「なんで魔物が!?精霊の加護はどうなっている!!」

ファリエラの力でエステリアには魔物がいないはず。

アイデルは戸惑いを隠せなかったが、それよりも今は女の子を助ける方が先だと

考え、走り出す。その姿を捉えた魔物はアイデルに標的を変えた様だった。

カマキリの様な爪を振り下ろされ、受け止めるアイデル。

剣の技術も平均以上だったアイデルだったが、魔物の力はそれ以上に強い。

押されるアイデルはそれでも声を上げる。

「君!早く逃げるんだ!」

少女はその声に反応したが、座ったまま動けないでいる。

腰を抜かしたか、どこかに怪我を負ったか。

その時、一人の人間がアイデルの元に辿り着く。

「優美!何しにきたんだ!君は優と安全な場所へ!」

「待ってられる訳ないじゃない!それに一人で倒せる様な相手なの!?」

「くっ……!しかし、なんでこんな魔物が……優美!今のうちに彼女を!」

「わかった!」

魔物を食い止めているアイデルの言葉に、優美は頷き、少女のもとに優を抱いたまま走り出す。

少女までの距離は10メートル程。

駆け寄る優美が手を伸ばしたその時、魔物が躍動する。

アイデルを弾き飛ばし、その爪は無防備な少女へと向かった。

「!」

しかし魔物の爪が捉えたのは少女では無い。

優と少女を抱きかかえて守る、無防備な優美の背中だった。


「優美……!!」


アイデルは叫ぶ事も出来ない。

その光景を見た瞬間、アイデルの喉は砂漠を一昼夜歩き続けた様に乾き、

心臓と脳が同時に破裂したかと思うくらいに、アイデルの心は真っ白になる。

優美の背中からは鮮血が飛び、返り血を浴びた魔物は狂喜したかの様に

ギイィッ、と不快な声をあげる。

その声を聞いた瞬間、アイデルは今まで感じた事の無い感情をむき出しにした。

それは純粋すぎる程の怒り。

目の前の魔物を殺す。愛しい妻の背に爪を立て、その暖かい血を見て喜ぶ様な

者を生かしておけるものか。答えは、否。


「うああああああ!ウアアっ!あああっ!!」


ゆっくりと倒れる優美を視界の端に写し、雄叫びを上げ魔物に向かっていくアイデル。

守れなかった。自分は愛する人を守る事が出来なかった。

自責の念と怒りと。

二つの感情が渦巻いたアイデルは冷静にはなれなかった。

突進してくるアイデルに向き直り、魔物が爪を振る。

アイデルを捉えた魔物の鎌がアイデルの肩口の肉へと食い込み、そのまま胸まで入る。

完全に致命傷となった傷を見て勝利を確信した魔物だったが、その目には剣を振りかぶる

アイデルが映った。

そして魔物の首が跳ね飛び、その体が崩れ落ちる。

「優美……」

アイデルは地面を這いながら、倒れている優美へとその身を懸命に動かす。

しかし、アイデルの手は優美に届く事は無かった。

エステリア国の誉れ高き賢王、アイデルの命の灯が消えた瞬間だった。

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