第十一話
「これがおぬしの両親の出会いじゃ」
「……なんというか、全てがギャグに思えてきたぜ」
「無理も無い。妾もあんな人間は初めてだった。少なくともこの世界には
精霊に喧嘩を売る者もおらんし、国王の顔面に拳を打ち込もうなどという者も
おらんからの」
先ほどまで湧いていた怒りも薄らいでしまう程のパワフル。
優は見た事もない母親に呆れてしまう。
しかし今の話を聞いて理解出来ない部分もあった。
「なあ、そもそも俺の母親……優美さんってのは、どうしてこの世界にいたんだ?」
「それは妾も未だに原因がわからんのじゃ。ただ……一つ言える事は
優美に治癒を施した時、妾の力をすんなりと受け入れておった。
妾の施しはこの世界の人間なら受け入れられるが、異世界の人間には
毒になる可能性も秘めておるのに、じゃ。もともとこちらの世界の住人と思っていた
からのう……後で異世界の者という事を確認したときは笑うしか無かったわ」
「洒落になってないだろ……それにしても原因不明か……確かに俺たちのいた世界でも
神隠し、って言葉がある位だからな……。その類いか?
それにしても、毒になるファリエラの力を異世界から来た優美さんは受け入れられた……」
「うむ。しかも本来は見る事も話す事も出来ない妾と会話をしよった。
もちろん妾の姿を確認した上で、じゃ」
「優美さんにはあらかじめ何かの力がそなわっていた……?ああ、もう何がなんだか」
「妾の姿を見る事が出来たのは、限られた一部の者だけじゃったからの。
それぞれの国の王、妾と同じ精霊共、あとは上位の魔物位じゃ。妾にも理解出来ぬ
部分が多すぎたのじゃ」
それまで饒舌だったファリエラが、ふと上を見上げ悲しい瞳になる。
まるで天井の向こうに思いを馳せた様に。
「それで?出会いは分かったけど、なんで俺が生まれるんだ?どう考えても
友好的でも、ましてやロマンティックの欠片も無い出会い方だろ」
「まあ、その辺はおいおい話してやろう。それよりも妾の罪を話しておかねばならん。
あの二人の子である優、おぬしにな。それにおぬしの両親がどうなったのかも」
「罪」という単語を聞いた優はファリエラのまっすぐな視線に息をのむ。
ゴクリ、と唾を飲み込み、姿勢をただした優にファリエラは話を続ける。
「どこの誰ともわからぬ優美を、アイデルは城に連れ帰った。
もちろん周りは大反対じゃったよ、独り身の国王がいきなり女を抱えて
帰ってきたからの。
しかし精霊と話が出来るという点を利用し、アイデルは優美を「精霊の申し子」として
宣言した。それで周りの武官や文官も黙るしかなかったのじゃ」
「なんで?精霊と話が出来れば偉いのか?」
「聞いておらなかったのか?本来見る事も出来ぬ妾と会話まで出来るのじゃ。
土地を守る精霊とじゃぞ?
その事実を知った後は皆がよってたかって「巫女様」などと呼び始めよったわ。
尤も、優美自身は良く分かっておらぬ様じゃったがの」
昔を懐かしむ様に、軽く微笑むファリエラ。
「まあ、優美もいきなり異世界に来て多少は不安だった様じゃ。
それを感じ取ったアイデルは、城で働かないかと持ちかけよった。「精霊の巫女」として
妾の管理を、そしてアイデルの秘書官として」
「ちょっと待った、管理ってどういう事だよ?」
「……ふふっ、そういう所も優美と似ておるわ。精霊は代々その国の王と契約し、
土地を守る。いくつかの国では道具としてしか見ておらん。アイデルはそんな事も
無かったがな」
「……どの世界にも胸くそ悪い奴らはいるんだな。まあ、この国の人間がそういう
奴らじゃなくて良かったぜ」
「優美も同じ事を言っておったよ。何が道具だー!とな。
それにこの城に来て3ヶ月程経った頃じゃ。おおむね好意的になっていた家臣の中にも一人だけ
頭の固い奴がおってな。こんな、どこの馬の骨ともわからん女にも見える精霊などは
実は大した精霊ではないのだろう、などとほざきよった」
「うわ、嫌な奴……まあ、この姿を見ちまうと俺も微妙な気分にあがっ!」
「何か言ったか?」
「いえ……なんでもございません……」
靴の上からとは思えない痛みを感じた優は、足を踏みつけているファリエラに
涙目で返答する。
「ともかくな、嫌みを言われた優美は何と言ったと思う?
あたしはなんて文句を言われようが構わない、ただ、あたしの友達を馬鹿に
するなら容赦しない、と言いよった。友達じゃぞ?土地を守る精霊、人外、道具を
友達だと思ってたんじゃと。まったく……」
「顔が赤いぞファリエあがっ!」
「学習せんか、馬鹿者」
またも踏みつけられる。
このままではまずい、と思った優が話題を変える。
「それで?お前の罪ってなんだよ?二人はどうなったんだ?」
「うむ……ここからが本題じゃ。妾も覚悟を決めよう」
それは優が見た事も無い両親と真実。
そして悲しい物語だった。