第一話
見渡す限りの緑。
生い茂る木々はまさに植物と獣の楽園であり、同時に侵入者を拒んでいるかの
様に、その身を大地に根付かせていた。
そんな樹海を必死で走っている人影が一つ。
その背後からは目の赤い、狼と呼ぶには大きく、虎と呼ぶにはやや小さい獣が
3匹。口からは涎を垂らし、牙をむき出しにしながら、前を走る人間を頭から喰らおうと
四肢を動かしている。
「なんだってんだ!ここはどこなんだ!どこに行けば良いんだ!ちくしょう!
待て待て待て。その前に後ろの奴らをなんとかしねえと!ってかどうすりゃいいんだよ!」
息を切らせながらも文句を垂れ流し、懸命に走っているその人間の風貌と
言えば、襟のついた半袖のシャツにジーンズ、足にはスニーカー、と
まるで「ちょっとそこまで」という簡単な服装である。
髪は短めで黒一色で、目はブラウンがかっているものの、典型的な
日本人の風貌だ。
「よーし、落ち着けよ俺。まずは現状把握だ。俺は今日、卓也の奴とCDを探す為に
家を出て、裏道を通ってる時に頭痛がして、気がついたら周りは木ばっかりで……
って、意味がわかんねえよ!!なんだってんだ!ちくしょう!」
必死で走ってる割には、結構なループっぷりである。
しかし後ろからは3匹の狼の様な獣。
このスピードだったらあと数十秒もあれば追いつかれて
綺麗に食べ尽くされる事は、簡単に予想が出来た。
「こんな所で得体の知れない奴らに食われるなんて、本気で勘弁だ。
っつても戦っても絶対に負けるだろうし……どうすれば……っ!?」
またもループしかけた時、進行方向に何かが立っているのを見つけた。
いくつかの影。小さい物や大きい物がざっと5つ程。
その中には自分と同じ人の様な形もあり、一気に安堵の感情が生まれる。
「た……助かったかも……神様っ……!」
そして一瞬の喜びも束の間。
一つの影がこちらに向かってくるのを確認した後、彼は
神を恨む事になる。
「と……虎ぁ!?」