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三話:趣味はチンピラ狩りです

 早朝、クリスは真っ先にストライダー組合へと向かった。

 町の中では珍しい金属をメインに組み立てられた重厚な建物。

 小銭稼ぎですっかり慣れた場所になったそこへ堂々と入ると、それなりに美人な受付嬢に話しかけた。


「ストライダーになりたい」

「組合加入費として5000ルクスを頂きますがよろしいですか?」

「構わん、はよ」


 クリスはイライラを隠そうとせずに、カウンターへ硬貨をぶちまけて催促する。

 受付嬢は嫌そうな顔をしたが、一向に構わない。

 普段ならば美人の部類の受付嬢に紳士的な態度を取るクリスであったが、今はそれ以上の美少女が待っているのだ。

 一分一秒が惜しかった。


「この書類に記入と登録のための血液を……」

「はい書き終わった。それはあらかじめ用意してる。ちなみにテンプレ説明はいらないぞ、全部知ってるからな」

「…………はい。組合のプレートは三日後のお渡しとなりますので」

「その前でも依頼は受けられるんでしょ?」

「はい、仮プレートはお渡しできますので」

「じゃ、それでよろしく。オレは先に依頼見てるからそれまでに仮プレの用意を頼むよ」


 クリスは機嫌の悪化が止まらない受付嬢に背を向けて掲示板に向かう。

 そこに貼られたのは無数の手配書。

 国や町から賞金のかけられた犯罪者や魔物達だ。


 クリスが狙うつもりなのは犯罪者のほうだ。ストライダー達は"魔物の脅威"から人を守ることを誇りに思っている者が多いせいで犯罪者狩りを嫌悪する傾向にある。

 そのために賞金首は余っているから好都合だ。何より人のほうが財宝を溜め込んでいるから儲かる。

 そしてクリスは人間のクズを狩ることに何ら嫌悪感は抱かない。むしろ嬉々として狩るほどだ。何なら趣味にしても良い。


「こいつにすっか」


 毒牙のリーブス。種族は人間で異能は不明。獲物は毒の塗られた短剣。顔に月を象った刺青。近接戦闘を得意としている。賞金額は300万ルクス。推定七十名の盗賊団の頭領。

 街道を通る商人が主に獲物となっている。出没地域は町から片道で徒歩四日。

 

 この賞金額だけでは目標金額には届かないが、商人を狙っているというのが良い。溜め込むタイプであれば一気に届く可能性は十分にある。

 異能が不明というのが気になるところではあるが、クリスは自身のジグソーよりも応用力のある異能を見たことがなかった。

 所詮は盗賊、どうにかなる。数を相手するのは得意だ。


「仮プレートとやらをくれ。こいつを狩ってくるからさ」

「この賞金首は……いえ、余計な心配ですね」

「その通り」


 話のわかる受付嬢だった。諦めたと言ってもいい。

 クリスはやると決めたらやる。どれだけ忠告されようが警告されようが。


「プレートに内蔵されている人工精霊の記録をもって討伐の証拠としますので、紛失にお気をつけください」

「わかった」


 受付嬢が手渡したのは鎖の通された銀製の小さなプレートだった。

 それをクリスは失くさないように首にかけることにした。


 それにしても意外にハイテクだとクリスは感心した。

 自分が若い時にはこんなものなかった気がする。刈り取った首を持って行かなくていいのは好ましい。


 貰うものは貰った。準備完了だ。

 チンピラ如き、ジグソーがあれば武具などなくても問題はない。回復薬の類もいらないだろう。

 必要なのは食料だ、少なくとも一夜を越すことにはなる。


 クリスは美味しいものでも買って英気を養うことにした。

 特に好物であるヴォルトは何十年も食べてない。薄い小麦粉で作ったパンの中に肉や野菜やチーズを入れたものだ。甘辛いソースのやつで、肉は特にバジリスクがうまい。


 食料を買い込みバイクの荷台へ載せる。

 行きでは鬱陶しかった城壁もストライダーになれば、ある種の特権で優先的に城門を抜けられた

 ストライダーを重用しているリーベル連合ならではのことである。

 

 


 ホイールに組み込まれたモーターの回転数を最大にして道を急ぐ。

 その分だけ燃料となっているクリスの魔力も吸い取られるが問題はない。


 魔力の多さは魂の強さだ。百五十年以上という人間の寿命を超えて生きてきたクリスの魂は凡人よりも強固。よって生半可な魔力量ではなく、数日バイクを乗り回したくらいで尽きたりはしない。


 道中で魔物と出会っても銃撃すらせず、無理矢理に突っ切る。

 雑魚と遊んでいる時間はなかった。

 

 クリスは小さな尻が痛くなっても我慢をして、ただひたすらにハンドルを握った。

 そうして何時間も走り続けて、視界に木の生い茂る山が映り始めて、空も暗くなり始めた頃。

 街道から少し外れたところで四人組の男を見つけた。側には荷車と繋がれた馬。いかにも商人らしい様子である。

 クリスが近付けば手を振って友好的であることをアピールしていた。

 美少女とお近付きになりたいというわけだ、その気持ちはわからなくはない。


「こんにちは、いや、こんばんはの方がいいかな」


 クリスがスピードを落として近くに止まると、男達の中の一人は馴れ馴れしく話しかけてきた。


「いや、さようならだな」


 クリスはそう言うとジグソーを即座に発動させた。

 四人の男を囲むように周囲の地面から硬化させた土の杭が飛び出す。

 三人の男は全身を貫かれて即死。四人の中で最も若かった幸薄そうな顔をしている赤髪の男は両腕を貫かれて動けなくなった。

 まるで起きたことを理解できていないのか、痛みも忘れてポカンとしている。


「おい」

「ひぎゃぁぁぁぁ!!!」


 クリスが話しけると生き残りの男は急に元気になった。

 仲間のドス黒い血の掛かった赤い髪を振り回しながら狂乱している。


「うるさい、他のやつみたいになりたくなければ静かにしろ」

「……あ、あぁ」


 クリスの脅し言葉に、男は自身の未来を想像したのか痛みを堪えて静かになった。


「お前らのアジトは?」

「な、なんで、俺たちが商人じゃないって……」


 男の問い。答える必要はないのだが、すっとぼけなかった礼に答えてやることにクリスは決めた。


「勘だ。強いて理由を言うなら荷車の大きさと人数が釣り合わない気がした」

「な、そ、そんな理由で……本当に商人だったらどうするんだ!?」


 思ったよりも口答えをしてくることにクリスはイライラしてきた、

 だが、衝動に任せて始末すればこれからの仕事が面倒になってしまう。

 そうして仕方なく答えることにした。


「謝る」

「死んだら意味ないッスよ!!」

「ごちゃごちゃうるせぇ!」

「ぐっ……ひでぇ……」


 あっさりと堪忍袋の緒が切れたクリスは男の腹を思い切り蹴飛ばした。

 少し調子に乗っていたからな、必要な躾だ。そう考えていて罪悪感は欠片もなかった。


「アジトへ案内しろ。大人しくしていれば生かしてやるさ」

「へ、へぇ……」


 ジグソーによって土杭を分解。

 若い男を解放すると、彼は傷を抑えて荒い息を吐きながらも頷いた。


「良い返事だ」


 思ったよりも出血が多いことにクリスは気付いた。

 途中でくたばられても困るし塞いでやることにする。

 ジグソーは失った肉を再生させることはできないが、他の部分から肉を持ってきて埋めることはできる。

 難点は主に贅肉を使うから体型がスリムになることだ。


「な、治った!?」

「応急処置だ。ほらいけ、怪しい動きをしたら即座にぶっ殺すからな」

「は、はい!」


 途端に元気になった男の先導でクリスは山へと向かって歩いた。

 バイクは隠して置いていくことにする。あれに乗ったままだと音で察知される可能性があるからだ。


 黙々と歩いた。不意に男を蹴りつけて弄ぶことでストレスを解消しながら歩いた。

 街道を歩いて山に差し掛かると獣道へと入る。

 太陽も完全に落ちて、わずかな月明かりが差し込むだけになったとき、不意に男が歩みを止めた。


「あと少しで見張りの視界に入りやす」

「ふん、方角とだいたいの距離は?」

「北東に200。北西に150ほどっス」


 クリスはジグソーの能力を言われたほどの距離まで広げてみる。視覚外に範囲を広げるのは少しばかり神経を使うから好きではないが、仕方がない。

 

「……確かにいるな、木の上で見張りか」


 ジグソーによって人間らしき物体があることを判断すると同時に、その側の木を組み替える。

 大きな口を開けるように変形した木は人間を飲み込むと動かなくなった。叫び声すら上げさせない、生き埋めにした上で噛み砕く。

 どうせろくな奴らじゃないのだ、木の肥料になったほうが有意義というものだろう。


「……見えずともわかるんです?」

「あぁ、もう始末した」

「……先に進みやす」


 男がゴクリと唾を飲んで、静かに歩くのを再開した。

 心を読む異能がなくとも男の考えていることがクリスにはわかった。

 心から恐怖して、安堵しているのだ。

 クリスという絶対的強者に従属した自分の決断を褒め称えている。こういう素直な小物は嫌いではない。

 クリスが最も嫌いなのはそこから更に自分を利用しようと企むやつだ。そういった輩は見つけ次第に始末することにしている。

 

 そうしてたどり着いたのは岩壁だった。

 到るところに蔦が生えていたり、倒木が寄れかかったりしている。


「あれが入り口、蔦で覆われているとこっス」

「一見しただけじゃあ、わからんな。他に出入り口は?」

「非常用のが一つ」

「案内しろ」


 一人たりとて盗賊を逃がすつもりはない。

 別に首領だけ倒せば金は手に入るが、逃げた賊はその先で悪事を働くだろう。

 そうすれば見知らぬ美少女が魔の手に落ちるかもしれない。そう思うとクリスは奴らを逃しておく気は一切しなかった。


 次に辿り着いたのはまたも岩壁だ。

 今度は蔦のような偽装工作らしき物は確認できず、ただ崩れたのだろう大きな岩がいくつも転がっているだけだった。


「あの、中央の大きな岩の後ろに脱出路がありやす。隠すように置いてあるだけで本当に一回限りの逃げ道っス」

「はぁん、なるほどね」


 下手に魔力を使用した妨害工作がされていないだけ分かりにくい。クリスは"荒事をあまり好まない"から、こういった罠や隠し通路の類を探知する技術もない。

 魔力が使われていればまた別なのだが。


「じゃ、もう行っていいぞ」

「あ、ありがとうございやす……」


 そう言って頭を下げた男はそそくさと立ち去ろうとした。


「あ、待て。お前の名は?」

「へ? ラウルっス」

「そうか、行っていいぞ」


 名前を聞いたのはそのほうが良い気がしたからである。

 男の名前など知りたくもないが、クリスは自分の勘に従えばより良い未来が待っていることを経験則から知っている。

 よっぽどのことでない限り勘に従わないことはない。


 去っていくラウルに背を向けて、岩壁周辺に対してジグソーを発動する。

 大気の構成は主に窒素に酸素にアルゴンに炭素。

 ジグソーは原子を自由に組み合わせることができる。よって、足りない炭素は周囲の木で補うなどすれば……無色の液体が大量に生成された。

 クリスは更にそれをジグソーで岩壁に無理やり混ぜ合わせた。

 

 液体の正体はニトログリセリン。大昔には爆薬として使われていた物質だと"本"にはあった。

 更に時限式の発火魔法を仕掛ける。設定時間は十五分。魔法の能力が乏しいクリスでは小さな火しか出せないが問題ない。


 ……クリスの魔法に関しては人間という種族の問題ではある。人間は異能が使える代わりに魔法の感性が低いのだ。魔法に関しては天人や魔人には敵わない。


「さて、そろそろだな」


 盗賊団の隠れ家の入り口まで戻ったクリスは今か今かと待っていた。

 しばらくすると腹の底に響くような轟音と共に少しばかり地が揺れた。無事に起爆したようだ。


「誰一人として逃がさん」


 洞窟の中で人が蠢いているのを感じる。

 だが、今更ジタバタしてところでもう遅い。


 クリスは慌てて外に飛び出そうとした二人の男をジグソーによる土杭で串刺しにした。鮮血が洞窟の入り口を染め上げる。良いことをすると気分がいい。

 

「覚悟しろゴミども、掃除の時間だ!」


 凄惨な笑みを浮かべながらクリスは堂々と血に濡れた地面を踏みしめて、盗賊団のアジトへと侵略を開始した。

『異能力図鑑:No1』


【能力名称】ジグソー

【能力内容】指定した空間の中にある物質を好きな単位でバラして組み合わせる能力。

物質をバラす単位の小ささ、指定空間の広さ、動かす物質の量によって使用者の負担は増加する。

物質は空間内を自由に動かすこともできるので、クリスは食事の時に寝転びながら口へ運んでいる。

主な攻撃方法は地面や壁の硬度の高い物質を寄せ集めて杭を作り上げ対象を貫通させること。

【評価値】

《ダメージ:D》《レンジ:A》《スピード:A》《スタミナ:C》《レア:A》


※ダメージ:異能が直接的に生物を害す力を表す

※レンジ:異能が使用者からどれほどの範囲まで効果を及ぼすかを表す

※スピード:異能が発動してから効果を及ぼすまでの速さを表す

※スタミナ:異能の持続性や魔力の燃費を表す

※レア:希少度を表す


※A~Fの評価で判定する。

 A:とても優秀 B:優秀 C:普通 D:微妙 E:とても酷い F:論外

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