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開幕:人類超越

――お前の術は呪われている。

――お前は神の定めた秩序を踏みにじろうというのか?

――欲望のままに過ちを犯そうというのか?

――ならば、我々はお前の前に立ちはだかるだろう。






「ふはははは! げほっ……げほぉ……ついに、やったぞ!」


 高笑いをするヒースクリフという名の老人が一人、薄暗い洞窟で高笑いをあげた。

 

 ここまでざっと百五十年以上。苦労に苦労を重ねた。

 どの種族でも使える"魔法"とは別に、人間だけが持つ"異能"。

 異能とは、魔法とは違いそれぞれ個人だけが持つ特異な能力だ。


 ヒースクリフの異能は"物をバラバラにして組み直す"だ。

 例えるならばジグソーパズル。指定した空間を読み取り、切り刻みバラバラにして、好きなように組み直すことができる。

 また、組み直すという工程を行わないことで、バラバラにしたままにすることも可能だ。

 

 この異能をヒースクリフは"ジグソー"と名付けた。

 ジグソーの使用には様々な物質の構成を理解することが必要だ。

 だが、習熟を重ねることで、擬似的に傷を治したり物を直したりできるというとでも便利な能力である。

 

 ヒースクリフは使いこなすために頑張りに頑張った。

 なぜなら女の子にモテたいからだ!

 どうしてもモテたかった! 可愛い女の子に囲まれて暮らしたかった!

 ケモミミでのじゃ口調の美少女とイチャイチャしたかった!

 

 なのにモテない。

 ある程度なら傷も治せるし物も直せる便利屋だというのにモテなかった。

 剣術を鍛えに鍛えて、王様から討伐依頼の出された有名な化物を倒してもモテなかった。

 

 町が山賊に襲われて嘆いている美少女に、皆殺しにしてやるから一発ヤらせてくれと頼んでもダメだった。それどころかお前も山賊みたいだと言われた。

 理由はオレが醜男だからだ、とヒースクリフは思った。

 

 ヒースクリフは嘆きに嘆いて、三十歳の夏に天才的な発想を得た。

 美少女が寄ってこないのなら、オレが美少女になればいい。

 逆転の発想だ。

 それに美少女になれば警戒されずに同じ美少女に近付くことができる、女湯とて正面から突入することができる。

 何より美少女と美少女はお姉さまと言い合ってイチャイチャしているイメージがある。

 

 ヒースクリフは実に自分のことが天才だと思った。

 三日くらいは自画自賛を続けていたほどだ。

 

 まず、人体の構造を完璧に理解する必要があった。

 これには最も苦労した。傷を治すのとは違う。性別や人種による違いもあるし、何より研究材料を入手することが辛かった。

 ひたすらに死体安置所(モルグ)に忍び込み死体を盗み続ける日々。

 何度も指名手配をされて逃げ回るハメになった。

 

 死体を盗む必要がなくなったのは研究を初めてから四十年ほど経ってから。

 それからはただひたすらに僻地の地下で研究の毎日だ。

 人体を構成する物質は地中やその近辺でも採取できたから、どうにかなった。

 食事も同じようにした。味は悪いが生きるだけなら何とかなる、

 それにヒースクリフの頭は何十年経ってもまだ見ぬ美少女でいっぱいだった。

 

 時々自身の肉体を再構成することで寿命を延長しながら研究を続けた。

 そうして百五十年以上だ。

 とても長かった。ひたすらに長かった。

 

 だが、完成したのだ。

 目の前の簡素な寝台には美少女がいた。設定年齢14歳、射手座のB型。

 腰まで伸びた濡れ羽色の髪、鳩の血のような色をした瞳。

 完璧に整った顔に、絹のようにすべすべとした肌。

 小ぶりな胸の150センチに満たない小柄な体格。

 

 最高だ。ここまでの美少女はいないって程の美少女を作り上げた。

 あとはヒースクリフがこの肉体に入り込めば研究は終了である。

 

 自身の肉体を再構成するという手法であれば、五十年は早く肉体を乗り換えられた。

 だが、ヒースクリフは嫌だった。完璧にこの醜男を構成する物質を捨て去りたかった。

 

 そこで着目したのが、"魂"である。

 人間の肉体を完璧に作り上げてもそれはただの肉塊に過ぎないことをヒースクリフは研究の過程で知っていた。

 

 何かしらの……例えば、"大いなる意思"とも呼べるもの、"世界の法則"と呼べるものが魂を与えなければ人間を代表とする生き物は作り上げることができない。人間もどき、人間とは異なるただの肉塊となるだけだ。

 

 そこで着目したのはジグソーが魂をも対象にできるのではないかということだ。

 そこらへんの動物や"何人かの尊い犠牲"によってヒースクリフはそれを確信することができた。

 

 つまり、自身を肉体と魂に分解して、新たな肉体と魂に再構成させるのだ。

 その時に過去の肉体が持っている記憶を刻むことを忘れないようにする。

 物を思い記憶するのは脳みそだけではないが、メインであることには違いない。魂には一部の強く刻まれた記憶しか保存されていない、いわゆる幽霊にまともな知性がないのはそのせいだ。彼らは生前に残した強い執念と本能だけで動いている。

 

「さてさてさて、やるぞ」


 年甲斐もなくウキウキとしてきた。

 不安な気持ちはない。失敗しても死ぬだけだ。どっちにしろ醜男として百年以上の間も童貞で生きてきた男は終了する。

 そう思うと気は楽だった。


「"ジグソー"」


 短いたった一言の詠唱と共に異能を発動させる。

 肉体から少しずつ力が抜けていく。

 これが肉体の死か。何とも感慨深いものだとヒースクリフは思った。

 完全に力が抜けた次の瞬間には視界が急激な加速をした。


 知ってる天井だ。

 ヒースクリフの引きこもってきた地下洞窟の天井。


 身体が軽い。

 散々に酷使を重ねてボロボロになって、老いさらばえた身体ではない。


 肌はすべすべ。おっぱいは柔らかい。


「大成功だ!」


 蕩けるような甘い少女の声が部屋に響いた。

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