君のために嘘をつく
初めて自分で小説というものを書きました。つたない文章ですが、読んでいただければ幸いです。
私は、君のために嘘をつく。
君がたまにする咳。その咳の理由も、君がもう長くはないことも私は知っている。
君は優しいから、私に何も言わずに最期をむかえるのだろう。
きっとたくさん悩んだよね。苦しんだよね。
その不器用な優しさは、少し寂しくて、そしてどうしようもなく愛おしい。
出会った時の君の背中は頼りなくて、私が支えてあげなくちゃ、って思った。
それなのに、君には頼ってばっかりだったね。
低く落ち着いた声も、照れたような笑顔も、全部全部大好きだった。
今、私にできることなんてきっと何もない。
それならせめて、最後まで君が笑えるように、私たちに残されたほんのわずかな時間をいつも通りに過ごそう。
きっとそれが、2人の最後の幸せだから。
僕は、君のために嘘をつく。
僕はもうすぐ死ぬ。そのことを彼女は知らないし、言うつもりもない。
今この病気のことを言ったら、きっともうこれまでの日々には戻れなくなるだろう。
だから僕は伝えないことを選んだ。
ごめんね。でも、最後までいつもの君でいてほしかったんだ。
きっと、分かってくれるよね。
僕は何かに秀でているわけでも、特別性格がいいわけでもない。
そんな僕でも君は愛してくれた。
君と過ごす毎日は、とても楽しくて、最高に幸せだった。
僕にこの先の運命を変えることはできない。
だからせめて、僕らに残されたこの少ない時間を、いつも通り過ごそう。
きっとそれが、2人の最後の幸せだから。