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精術師と魔法使い  作者: 二ノ宮芝桜
第三章
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3-6 何で俺は苗字なんだよ!

「……何故?」


 この中で、一番最初に口を開いたのはベルだった。

 完全停止、案外早く解けたな!


「他の奴にはない、特別な能力を持って生まれて、何故もクソもあるかよ」

「つまり、1枚である俺も、その大嫌いな魔法使いの中に入る、と」

「当たり前だろ!」


 カラーさん……もう、さんとかいらないな? えーっと、カラーは、尚も大きな声で続ける。


「お前にない能力を持っている、という、ただそれだけで?」

「それだけって――」

「これが、俺の容姿に嫉妬したのなら理解出来るんだが、1枚である事でこんな事を言われているとなると」


 チロっと、ベルがカラーを見る。その瞳は氷のように冷たい。


「13枚に暴力を振るわれ続け、満足に食事もとれず、常識すら教えられずにかろうじて呼吸だけしているような生活をしてから物を言えとしか」

「……え?」


 カラーが間抜けな声を上げた。お前が上げなきゃ、オレが上げているところだったわ。

なんだそれ! その地獄のような話はどこから出てきた話なんだ!?


「いや、何でもない」

「ベル、おいで」

「……まぁ、行ってあげてもいいですよ」


 すかさず所長が腕を広げると、珍しくベルは素直に近付いて行った。まさか……あれ、ベルの実話って事はないよな? ない、ん、だよな……?


「あの、今の話ほどの衝撃はないけどさ。精術師も皆にバカにされまくってムカつくぞ?」


 と、とりあえず、話を元に戻しておこう。オレはオレで、「精術師もムカつく事いっぱいだぞー」と伝えておいた。


「そ、それでも!」


 カラーはベルのショッキング発言を引きずっているのか、ちょっとドモりながら続ける。わかる。オレにとっても衝撃的だった。


「能力のない奴は貧乏クジを引いているようなもんだろ!」


 マジか。考えた事もなかった。

 いや、うーん、でも……それを言ったら、背が小さいのだって貧乏クジを引いているようなもんじゃないか? オレだって、出来る事なら長身イケメンになりたかった。

 けれど、それで貧乏クジとは……。いろんな考えの奴がいるもんだな。


「言っておくけど、お前らもだからな!」


 カラーはジギタリスとネモフィラの方を向いて、ギロッと睨みつけた。

 どうやら目つきが悪いんじゃなくて、さっきから本当に睨んでいたらしい。


「魔法使いでも精術師でもないけど、お前には恵まれた環境があった! コネがあるやつだって大嫌いだ!」

「はい、貴方が私を嫌っている事は分かりました」


 ジギタリスはあくまで冷静に、表情の一つも変えずに頷いた。


「ですが、今は仕事中です。仕事中にくだを巻く事については、どうお考えですか?」

「うぐっ……」


 あっ、これ、同じような反撃を所長にされた事がある! 正論だけに、言い返せないんだよなー。


「お前ら、大会には出るのか?」


 話、逸らしたな。どんまい!


「あ、はい。その為の依頼に来たので」


 ディオンさんが相槌を打つ後ろで、本日のやりたい放題王であるところのシアが、ジスの制服の袖をちょいちょいしながら「ジッキー。エクリン怒りっぽいね?」と声をかけていた。お前、いつの間にそんなところに場所を移動した。


「俺も出る」

「あぁ。貴様が今大嫌いだといった、精術師である私も出るぞ」


 ベルが頷き、続いて一言余計なスティアが不敵な笑みを浮かべる。


「仕事中にもかかわらず喧嘩を吹っ掛けるとは、ここに入ったばかりの頃のクルトと大差ないな」


 ちょ、スティアさん!? なんの話をしているんですかね!? お兄ちゃんびっくりしちゃったぞ!


「天下の管理局も、落ちたものだな。こんな頭の悪いうちの兄と同じような行動を繰り返す奴に外回りさせるとは」

「さっきからさりげなくオレの事も巻き込んでバカにするのをやめろ!」


 とんだ巻き込み事故だ。そりゃあ、まぁ、オレはあれだったけど!


「俺もその大会に出る! お前らみたいなズルい奴を負かせてやるからな!」

「ほう、私達のようなズルい、か」


 カラーがこちらをビシっと指差したが、スティアは鼻で笑う。


「ならば、私は女性、貴様は男性という時点で精術を使って丁度対等だな?」


 え? そうか?

 そりゃあ、見るからにカラーの方がスティアよりも体格はいいが、丁度かと問われると……。

 だって、精術って精霊にいっぱい力を貸してもらっているから、一対複数になってしまう気がするのだ。これ、対等?


「男はいいな。筋力も付きやすくて」

「お前……! 絶対腹筋割れてるくせに!」

「割れていて何が悪い! それでも、貴様から見ればか弱い女性だろう?」

「か弱くはないだろ!」


 うん、まぁ、か弱くはないな。正面から殴り合いをしたらスティアが負けるだろうが、か弱いっていうのは、もっとこう……。オレの視線は自然とアリアさんへと向かう。


「か弱いっていうのは、ああいう……」


 それはカラーも同じだったらしい。男二人の視線を感じてか、アリアさんは困ったように笑った。その様すら可愛らしい。


「アリアはね、か弱いなんて生ぬるいよ。貧弱。常に満身創痍」

「そ、そこまでじゃないわ……」


 口を挟んだのはシアだ。アリアさん、否定したい気持ちは分かりますが、オレには貴女に加勢する事は出来ません。もっとご飯を食べて下さい。


「と、と、と、とにかく! 覚えてろよ!」


 あ、どうにも出来なくなって誤魔化した。わかるわかる。そんな事もあるよな!


「大変申し訳ありません。直ぐに回収して、戻り次第適切な指導を致します」

「ジス君、もしかして最近不運に好かれてるの?」


 所長がジギタリスに気遣わしげな視線を向ける。というか、これ、同情?


「まぁ、こっちは気にしてないからさ。まさかお客さんに喧嘩を吹っ掛けられるとは思わなかったけど」

「んぐっ」


 呻いたのはカラーだ。こいつ、憎めないやつだな。一応こっちの立場に思い至ったんだな。


「頑張ってね」

「ありがとうございます」


 所長が小さな声で「うちもこの前まで似たような問題を起こす子がいたからわかるよ」と続けたのに、ちょっと胸が痛む。それ、オレの事だよな。ごめんなさい。


「じゃあね、ジッキー、モッフィー、エクリン!」


 ぴょこん、と、ちびっこ巨乳が跳んだ。今は三つ編み団子にされている髪は殆ど動かず、動いたのは大きな胸だけ。

 管理官が帰る雰囲気を察知し、手を振っているのだ。なぜあえて一緒にジャンプしたのかは不明。


「何で俺は苗字なんだよ! しかも伸ばすシリーズじゃないし!」

「えっ?」


 えっ? お前……お揃いのニックネームがよかったの?


「じゃなかった! 勝手に変なあだ名をつけるな!」

「……エクリン、面白いね」

「別に面白くない!」


 いや、ちょっと面白い。憎めないやつっていうか、なんていうか。


「ほら、次に行きますよ」


 ジギタリスは大きくため息をついて、カラーを促す。


「本日は大変失礼致しました」


 それからすぐに深々と頭を下げた。


「お時間を頂き、ありがとうございました」


 オレ、分かった。管理官って大変な仕事。


「モッフィー、またねー!」

「ええ、ごきげんよう。シアちゃん?」

「そう、シアちゃん!」


 前回ここに来た時はとんでもなく迷惑をかけたモッフィ……じゃなくて、ネモフィラは、今日は大人しかった。そしてシアに慣れている様子だ。

 そうそう。シアの相手は慣れが肝心。

 三人はもう一度頭を下げると、何でも屋を後にした。


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