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精術師と魔法使い  作者: 二ノ宮芝桜
第三章
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3-2 依頼の続きをお話ししますね


「で、依頼というのは?」


 全員の自己紹介……正確にはベルとテロペアのそれはまだだが、大方名乗り終えた後に、所長が切り出す。


「えっと、もうすぐハイルで行われる武術大会があるのはご存知でしょうか?」

「ええ、まぁ」


 丁度さっき、ベルがオレに話していたのがその話だ。

 そのタイミングでベルとテロペアがコーヒーとお茶菓子を持って現れ、それぞれの前に置く。そしてオレ達に倣って席に着いた。


 オレの前に置かれたものは、アイスコーヒーとナッツ。甘いものが苦手なオレへの配慮がありがたい。

 他のメンバーとお客さんの前には……なんだあれ。卵の殻の上が無いようなやつの上から、クリームっぽい何かが顔を出している。そう、顔を出しているのだ。

白くて丸いクリームっぽい奴に、チョコレートか何かでつけられた目と口があり、その上にいい感じの形になるように切られたベリーっぽいものが頭についているのである。


「わーい、プリーン」


 プリン? あれが? どうみても卵の中に入っちゃったニワトリじゃないか? あの赤いベリー的な何かがトサカに見える。


「ミリィ、ミリィ! ニワトリさん可愛い! 今日のプリン、とっても可愛いよー!」

「ありがとう。テロペアの提案なんだ」


 ムキムキに出すお菓子を可愛く飾り付けた……?

 なんとなくテロペアがこの場に戻るのを渋った結果に見えるのだが、気のせいだろうか。いいか、シアが大喜びしてるし。


「……可愛くて食べられなーい」


 意外なところから、こんな発言が飛び出した。ばっちりお茶菓子と、ミルク多めのコーヒーを目の前に出されているアリアさんだ。


「アリア、食べなしゃい」

「うぅぅ……」


 アリアさん、食べて下さい。貴女は毎回の食事の量も極端に少ないんですから。

「大丈夫だよ、アリア! プリンは飲み物だから!」

「た、食べ物よ。咀嚼するもの」

「え?」

「……え?」


 色々可笑しいが、とりあえずプリンは飲み物ではない。


「えーっと、うちの所員がすみません。依頼の話を進めましょうか」

「いやいや、本当に可愛らしいプリンを出して頂けて嬉しいです」


 大きいムキムキ――ディオンさんは、丸飲み出来そうなサイズのプリンを前に微笑んだ。彼の隣で弟のラナンキュラスさんが「頭から行くべきか、目から行くべきか……」とブツブツ悩み始めたのを尻目に、ディオンさんは「ですが」と話を切り出す。


「依頼の続きをお話ししますね」

「お願いします」


 所長がぺこりと頭を下げると、「その大会に出たくて」と本題に入った。


「大会って、第一の?」


 あの話をしていた時に丁度いなかったベルが問うと、所長が「そうだよ」と肯定する。


「今までは、武器はもちろん、精術と魔法も使えなかったのですが、今年からは精術と魔法を使えるようになったらしいですよね」

「そうですね。その話なら聞いています」


 所長の反応から察するに、結構前から告知されていたのだろう。その大会に出る予定も全くなかったオレは知らなかったが。

 そうか、精術もアリになったのか。


「それで……その、出たいなと思ったんですけど、一緒に組んでくれる事になっていた方が、魔法使いでも精術師でもない方だったもので、出たくないと言い出して」


 お、おう。確かに何も使えない人にとっては、辛いルール追加かもしれない。


「いや、そもそもこちらが精術師であるという事でチクチクしてくる相手ではあったんですけど……」

「僕はあの人は好きじゃなかったよ。僕がそれなりの枚数だからと言って、兄弟で差があるなんて可哀想、とか、そうやって兄さんの事を馬鹿にして」


 ……前言撤回。そんな反応をするやつにかける同情は存在しないな。


「兄さんは優しくて、気遣いが出来て、平等で、強くて、素晴らしい人なのに。その兄さんを精術師というだけで馬鹿にするなんてどうかしている」


 ラナンキュラスさんは相当怒っているようで、唇を尖らせながらも文句が収まらない。その文句の大半が、兄を賞賛するものであるのは凄いが。


「大体にして、この精術師だからと馬鹿にしてくるのがおかしいよね。国の体制がダメなのか、個々の問題なのかは知らないけど、そんな事に囚われて人を人として見る事もせず、精霊の事を見えないからと否定する考えも間違ってる」

「ラナ。ちょっと落ち着いて」


 オレ、この光景知ってる。コスモスがスーさんにストップされている時のやつだ。

 ブラコンの下の子は暴走するのか? つまり、スティアはブラコンじゃない?

 いやいや、ブラコンじゃなくてもいいだろ。多少ちゃっかりしていても、妹というのはそういうものだし。


「でも兄さん。僕は大好きな兄さんが馬鹿にされてしまうのは、本当に嫌なんだ」

「ラナ、気持ちはわかった。嬉しい。だけど依頼の話を進めてもいいかな?」

「あっ、ご、ごめん! 兄さんのお話の邪魔をしちゃって、本当にごめんなさい」


 ディオンさんは苦笑いを浮かべながら「そこまで謝らなくても」とごちてから、こちらへ向き直る。周りの小さな精霊――エーアトベーベンが、「やれやれ」「ぶらこんにはまいったものだ」などとわざとらしく肩……肩、なのか? かろうじてある首の境目をすくめてみせた。大元のエーアトベーベンはゆったりとした足取り……足? いや、いいか。足っぽいもの取りで立ち上がり、伸び上がってラナンキュラスさんのコーヒーを啜っている。

 おい、お前が兄について熱く語っている間に、コーヒー飲まれたぞ。


 精霊は人間の食べ物や飲み物を必要とはしないが、捧げられると喜んで口にするし、ツークフォーゲルはよくオレやスティアのものを狙う。

 こいつらが飲食した後の食べ物や飲み物からは、一切の味と栄養素が消えてしまうのだが、形や食感だけは残るので、その残りを全て飲み込むのも、精術師としての礼儀だ。


「えぇと、依頼内容なのですが」


 チラッとエーアトベーベンを見てから、ディオンさんは続ける。お前も目撃したんだな。コーヒーを飲むモグラ型の精霊を。


「この何でも屋さんの中の、精術師の方と組んで大会に出たいんです。その大会の予選は、もう明日まで迫っていて、急ではあるのですが」

「それは問題ないですが、なぜ精術師と限定するんですか?」

「あぁ、それは……その、お断りされた一件が絡んで、ですね」


 所長の質問に、ディオンさんが続ける。


「僕が、精術師がいいって言ったんです。だって、精術師がチームメイトなら確実に兄さんが嫌な思いをしなくても済むと思って」

「あぁ」


 今日の所長、沢山苦笑いをするな。理由はオレにもわかるけど。

 ブラコンって、凄い。


「理由はもちろんそれだけじゃないんです」


 ディオンさんがまた続ける。なんかちょっと補足する人、みたいに見えてきた。


「精術師のいる、こういった事務所などはそうそうあるものではないので、一応いくつか精術師のいない事務所を周っていたんです」


 あー、どこぞに態度の悪い「手伝い屋」とかあったもんなぁ。オレはお試し期間中に取っ組み合いのケンカをして所長に叱られた出来事を思い出した。ここに就職したての頃の話だったか。

 あの頃は、この事務所に雇い続けて貰えるかがギリギリだった。


「けれど、俺達が精術師というだけで今まで断られてきました。そんな時、ここのチラシを見て、同じ精術師なら引き受けてくれるのではと思ったんです」


 もしも、かつてオレがケンカした「手伝い屋」のようなところが「なんでも系」の多数派なのであれば、精術師にとってはハズレの可能性が高い。ここ「何でも屋アルベルト」であれば、例えばオレやスティアが入っていなくても、精術師という理由だけで依頼を断ったりはしないだろうが。


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