2-55 可哀想な自分に酔いしれるのであれば、私は許さない
「仲間が亡くなる事は、稀にあります。市民の敵だとはいえ、犯罪者に私が手を下す事だってあります。無条件で誰でも助けられるわけではないんです」
……そういう、ものか。いや、わかっていたはずだ。わかっていたはずだが、オレはどうしても受け入れられなかった。
「貴方がすべきことは、彼の事を忘れずに、それでも貴方らしく生きる事です。苦しくなれば誰に溢してもいい。けれど、クルトさんが悲観して、クルトさん自身をこの世から消してしまおうだとか、生きている世界を謳歌してはいけないと思い込むだとか、そんな事を考え続けるのであれば」
ジギタリスは一度言葉を切り、じっとオレを見た。
「私は、貴方を許しません」
真っ直ぐに向けられた真っ直ぐな言葉に、窒息するかと思った。ドクドクと心臓が鳴り、息が苦しくなる。
恐怖なのか、あるいは不安なのか、全く予想もつかない。
「今は仕方がないです。直ぐに全て受け入れる事は、難しい事ですから。けれども、立ち直りもせず、可哀想なあの人、可哀想な自分に酔いしれるのであれば、私は許さない」
尚も続けられる言葉に、オレは必死に呼吸を繰り返した。意識しなければ、息が止まってしまいそうだ。
「きっとどんな手を使ってでも、苦しんで生きるように仕向けてしまうでしょうね」
「ははっ、ジス君は過激だな」
ピリピリとした空気を壊したのは、所長だった。いつも通りのだらしない雰囲気で、ぽん、とジギタリスの肩に手を置いたのだ。
「君の熱意は分かるけれど、少し見ておいてよ」
「ええ、勿論です」
……。
あとは、オレが自分で解決しないといけないんだ。分かっている。苦しいけど、分かっている。
「それと、お姫様とルースの活躍は聞いたよ。まぁ、ルースに関しては、直接見た訳なんだけど」
所長はへらへらしたまま、ジギタリスの肩に置いた手を降ろした。
「ちゃんと二人とも反省してるんだよね?」
「ええ! 本当に申し訳ありませんでしたわ」
「ごめんなさいッス」
ルースとネモフィラの答えに満足したのか、所長は大きく頷く。
「うん。それじゃあ、うちの担当のままでいいよ。次はないけどね」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「アザーッス!」
ジギタリス、ネモフィラ、ルースと来て、所長が「ルース?」とにっこりと笑いながら名前を呼んだ。怒ってるんだか怒ってないんだか、分かりにくい。
「ありがとうッス」
「……仕方ない子だよ、全く」
短く息を吐いたが、決して嫌な感じではない。
このあと、オレ達を狙ったアマリネとビスが何らかの反政府組織である可能性が浮上している事。シュヴェルツェの復活が確定した事により、仲間を集めて何らかの騒ぎを起こそうとしている可能性。そして、グロリオーサの肉体は無事ではあったが、やはり負荷がかかり過ぎたせいで入院となり、退院した後は暫く保護観察の対象になる事等を説明された。
なんでも、グロリオーサは自信の無い自分とは対照的なサフランに憧れてたらしく、彼が指名手配犯になってしまった事により心を激しく揺さぶられ、その隙をシュヴェルツェに突かれた形だったらしい。
少なくとも、心が健康になるまでは、暫く保護されている事になる、との事だった。
元凶であるサフランは、大した情報も持っていなかったどころか、基本的に人を覚えられない人間だったらしい。
シュヴェルツェ関係を調べても、アイゼアの事すら「ああ、痛い精術師君」としか覚えておらず、名前すら全く記憶していなかった。よほど自尊心を傷つけられない限りは、よくわかっていなかったらしい。
つくづく、理解のできない男だ。
ブッドレアとは教師と教え子の仲で、シュヴェルツェ側に引き込んだのがブッドレアだった、という程度の情報しか取れていない、との事だ。
……少し、オレも調べておこう。
完全に今まで通りには、きっとならない。それでも、オレらしく、生きないといけないのだ。
だからせめて、この事件はちゃんと終わらせよう。たとえ、どんな形になっても。
精術師としての役割とか、そういうのじゃない。オレの意思で、しっかりと。
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