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精術師と魔法使い  作者: 二ノ宮芝桜
第二章
102/228

2-53 クルトはよく頑張った

 目が覚めると、いつもの自室の天井が広がっていた。

 身体を起こすとやたらとダルイ。

 脳裏には、赤い色がちらつく。悪い夢、だったんだよな?

 重い身体を引きずりながら部屋を出て、階段を降りる。リビングには、不恰好な朝食が並んでいる。

 どうも、珍しく所長が朝食を準備していたらしい。ベルの姿は見当たらない。


「お、おはようございます」

「おはよう、クルト。大丈夫?」

「えっと、何が?」


 所長に挨拶をすると、彼は痛ましそうな顔をした。


「……大体の事は、後から君を連れてきたジス君に聞いたけど……。それでいいの? それでいいのならそのままにしておくけど」


 なんかオレ、忘れちゃいけない事、あったんだっけ?

 あ、なんか昨日凄い事があった夢を……。

 本当に、夢だったのか? あれは。


「所長、昨日って、サフランが捕まりましたか?」

「……そうだね」


 所長の肯定で、あれが夢ではなかった事を理解した。


「すみません。忘れちゃ、いけないのに。オ、オレ……」

「いいよ。ごめんね。クルトはよく頑張った」


 優しくされる権利なんか、オレには無い。それなのに無性に泣けて、オレはひたすら泣いて、その日、食事が喉を通らなかった。


   ***


 数日経った。

 仕事をしているとき以外は、あの時の光景がよみがえる。

 ベルは怪我をしていたし、長時間暗い中に居たせいか、しばらくは不安定そうだったが、それでもオレを励ましてくれた。事情を聞いたスティアやシア、アリアさんも同様だ。

 オレの方も皆の状況を聞いて、自分のふがいなさを痛感させられた。だが、それ以上に、やはりあの時管理官が死んでしまった事が、心を重くしている。


「クルト、お見舞いに行こう」


 よほど沈んでいたように見えたのか、ベルがオレに声をかけた。


「えっと、誰の?」

「ルース」


 そうだった。あいつ、腹を刺されて入院したんだった。それなのに、ベルを守るためにあんなに……。


「あ、折角だから僕も行くよ。アリアはお留守番ね」

「えー」

「えー、じゃないの。君、人のお見舞いに行くと必ず風邪貰ってくるじゃん」


 アリアさん、虚弱体質が過ぎます。


「じゃあ、あたしもお留守番して、便利アイテムの魔力注入のお仕事でもしてるよ。チャラメによろしく言っておいてね!」

「私も留守番しておいてやろう。外に行かなくてはいけない依頼が来た時、シアだと不安だからな」

「えへへ、帰って来られなくなっちゃう」

「そうなったら、わたしが探しに行くわ」

「で、こいつが倒れて二次災害だ。想像に難くないだろう?」


 妹含めた三人娘は、何とも仲良さそうに、何でも屋に残る事を決めた。アリアさんに関しては、若干の強制感はあったが。

 それから、オレ達が銘々に「行ってきます」と口にすると、三人娘もそれぞれ「行ってらっしゃい」と見送った。


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