2-53 クルトはよく頑張った
目が覚めると、いつもの自室の天井が広がっていた。
身体を起こすとやたらとダルイ。
脳裏には、赤い色がちらつく。悪い夢、だったんだよな?
重い身体を引きずりながら部屋を出て、階段を降りる。リビングには、不恰好な朝食が並んでいる。
どうも、珍しく所長が朝食を準備していたらしい。ベルの姿は見当たらない。
「お、おはようございます」
「おはよう、クルト。大丈夫?」
「えっと、何が?」
所長に挨拶をすると、彼は痛ましそうな顔をした。
「……大体の事は、後から君を連れてきたジス君に聞いたけど……。それでいいの? それでいいのならそのままにしておくけど」
なんかオレ、忘れちゃいけない事、あったんだっけ?
あ、なんか昨日凄い事があった夢を……。
本当に、夢だったのか? あれは。
「所長、昨日って、サフランが捕まりましたか?」
「……そうだね」
所長の肯定で、あれが夢ではなかった事を理解した。
「すみません。忘れちゃ、いけないのに。オ、オレ……」
「いいよ。ごめんね。クルトはよく頑張った」
優しくされる権利なんか、オレには無い。それなのに無性に泣けて、オレはひたすら泣いて、その日、食事が喉を通らなかった。
***
数日経った。
仕事をしているとき以外は、あの時の光景がよみがえる。
ベルは怪我をしていたし、長時間暗い中に居たせいか、しばらくは不安定そうだったが、それでもオレを励ましてくれた。事情を聞いたスティアやシア、アリアさんも同様だ。
オレの方も皆の状況を聞いて、自分のふがいなさを痛感させられた。だが、それ以上に、やはりあの時管理官が死んでしまった事が、心を重くしている。
「クルト、お見舞いに行こう」
よほど沈んでいたように見えたのか、ベルがオレに声をかけた。
「えっと、誰の?」
「ルース」
そうだった。あいつ、腹を刺されて入院したんだった。それなのに、ベルを守るためにあんなに……。
「あ、折角だから僕も行くよ。アリアはお留守番ね」
「えー」
「えー、じゃないの。君、人のお見舞いに行くと必ず風邪貰ってくるじゃん」
アリアさん、虚弱体質が過ぎます。
「じゃあ、あたしもお留守番して、便利アイテムの魔力注入のお仕事でもしてるよ。チャラメによろしく言っておいてね!」
「私も留守番しておいてやろう。外に行かなくてはいけない依頼が来た時、シアだと不安だからな」
「えへへ、帰って来られなくなっちゃう」
「そうなったら、わたしが探しに行くわ」
「で、こいつが倒れて二次災害だ。想像に難くないだろう?」
妹含めた三人娘は、何とも仲良さそうに、何でも屋に残る事を決めた。アリアさんに関しては、若干の強制感はあったが。
それから、オレ達が銘々に「行ってきます」と口にすると、三人娘もそれぞれ「行ってらっしゃい」と見送った。




