再会
「この前の件で酷い目に遭った。ヤツの事は何か分かったか?」
俺は九死に一生を得、命からがら本拠地に帰還することが出来た。戻ってからはヤツと死闘に割り込んできた女について四方八方手を尽くし情報を集めていた。
「キナコパンマンについては、数年前から犯罪組織を潰し回っている事はと地球人である事以外は今のところ分かっておりません。オナニーボーイ様が出会った女については何も・・・。」
「つまり、ギルドの情報網を持ってしても何も情報を掴めなかったということか。信じられんな。銀河中に張り巡らされた網に一つも引っ掛からんとは。これはヤツが単独で動いてるいるわけでは無いと言うことだ。ある程度大きな組織がバックアップしてる可能性が高い。各惑星で活動するレジスタンスや銀河連邦に属していない中立国、宗教法人やテロリスト片っ端から網を掛けろ!銀河連邦警察のデータバンクにもハッキングして情報を集めろ!」
「了解。それにしても、本当にコイツは何者でしょうか?生体パターンから地球人であることは間違いないのですが、地球のデータベースにハッキングしても全く情報がありません。戸籍登録すらされてないんです。」
「うーむ、俺ですら地球に戸籍があるのにな。そういえばお前も地球出身だったな。お前はどうなんだ?」
「姉を襲った後に色々あり両親に死亡届けを役所に提出されたんで抹消されました。」
「・・・そうか。聞いて悪かった。」
部下の知りたくもない情報しか収穫がなく、キナコパンマンについての調査は一端保留になった。
「少し前にペットボトルを女のフォルムにしたミネラルウォーターあったろ?それと同じだ。オナホールの容器をあれみたいにするんだよ。そして容器に貼り付けるフィルムはバニーガールとかブルマといった数種類のパターンを作るんだ。フィルム越しのお尻の隆起にイチモツの隆起も促されるといった仕組みよ。どうだ?」
「なるほど、中身も容器も一緒でフィルムだけが別なわけだからコストもかからないという事ですか。しかし、女性フォルムの容器を作るのはやはり難しいですなあ。あまり複雑な形状をしていると物流ラインにも影響が出ますからねえ。」
「そこを何とか出来んのか?行く行くは胸とお尻の大きさを変えて女子高生タイプやOLタイプ、ニッチな需要で幼女タイプや少年タイプと広く展開していきたいんだが。」
「少年タイプって何ですか?」
「ショタ好きの為のオナホールよ。胸の代わりに下半身にマシュマロが付いた容器にするんだ。フィルム越しのもっこりがポイントだ。」
「さ、さすがオナニーボーイさん。アダルトグッズマネジメントの第一人者ですね。私共では創造出来ないアイデアです。」
「ふふ、世辞はいい。それよりも、この案件は前向きに考えてくれよ。この企画は売上げだけではなく、販路の拡大にも一役買うかもしれんからな。上手くいけば医療器具として医療メーカーに食い込むこともできるかも知れん。」
「は、はあ。とりあえず会社に持ち帰って取り掛かります。サンプルが出来ましたら後程お送り致します。今後ともよろしくお願い致します。」
「あぁ、期待しているよ社長。この企画が成功すれば莫大な利益を産み出すはずだ。そうなればあんたのところの町工場は世界に冠たる大企業になるかもしれん。」
「いや、大企業だなんて。私には小さな町工場のオヤジが性にあってますから。」
「ふふ、今にそんな事を言っていられなくなるさ。そうだ、最後に一つ。キナコパンマンというヤツを知っているか?赤い服と黄色いマントを、羽織った変質者なんだが。」
「キナコパンマンですか?さあ、聞いたことありませんねえ。その人が何か?」
「いや、知らなければいいんだ。気にするな。」
キナコパンマンに関連するニュースはなぜかメディアでは報道管制が敷かれているらしく、一般人がこの名を知っているかことはまずないだろう。
「あ、変わっていると言えば・・・」
「ん、なんだ?」
「いえね、変わっていると言えばこの前知り合いの小麦粉業者に聴いた話なんですがね。なんでも風変わりなお客さんが小麦粉を大量に仕入れていったって。でもその人飛び入りのお客さんで口座開設をしていない人には商品を卸せないって一度は進もうと断ったらしいんですよ。そうしたら現金が入ったキャッシュケースを大量に持ち出してきて目ん玉が飛び出る位の額で売ってくれって頼まれたんでしょうがなく卸したって言ってましたよ。」
「小麦粉?大量の小麦粉をナニに使う気だ。粉塵爆発・・・撹乱器具?防策装置・・・いや、どれにしたって小麦粉を使う意味がわからん。」
「まあ全然関係とは思うんですがね。では、私はこれで。」
「あぁ、すまなかったな。おつかれさん。」
たしかに風変わりな話ではあるがヤツとは無関係だろう。だが些細な事でも今は情報が欲しい。藁にもすがる思いで探ることにした。目的は不明だが大量の小麦粉を仕入れているのなら数ヶ所で取り引きをしているはずだ。業者に探りを入れれば何か分かるかもしれん。早速部下達に命令を出し小麦粉業者を当たらせた。
「どうだ葉月、何か分かったか?」
「たしかに不審な人物が大量の小麦粉を色々な業者から仕入れていることが分かりました。そして仕入れた小麦粉をメロンパンを模した珍妙な宇宙船に積み込んでいたようです。」
「それを何処に運んでいるかだな。転売しているのか、1ヶ所に集積し何かに使うために集めているのか。知り合いの一人に宇宙小麦粉卸商組合連合会の役員がいるから話を聞いてみるか。」
「そんな所にまで知り合いがいらっしゃるのですか!?」
「ふふ、人脈が無ければ組織で上に立つことなんて出来ないさ。コネクションは政治家から駄菓子屋の婆さんまで持っておくものだ。よく覚えておけ。」
偉そうな事を部下に言ってしまったが、まさか自分でもこんな所で繋がりが生きることになるとは夢にも思わなかった。早速俺はアポイントメントを取り、その役員の元へ向かった。
「やあ中原さん、調子はどうだい?」
「やあ小名さん、久しぶりだねえ。」
中原とはカタギ同士の関係で通しているため、偽名を名乗っている。表向きは駆け出しパン食人の「小名仁居」として接しているが、裏の顔が泣く子も黙る海賊ギルドの幹部とは夢にも思うまい。
「いやー5年くらい前かねえ?パン屋を開きたいから小麦粉を仕入れさせてくれって行ってきたのは。昨日の事のように覚えているよ。鋭い目付きの大男が急に小麦粉を売ってくれなんてね。商売は上手く行っているのかい?」
「まだあの時の事覚えてるんですかあ?僕もあの時は必死でしたからねえ。商売はなんとか軌道に載って順調にいってますよ。」
「そいつは良かった。ところで今日は何の用だい?」
「実は人を探してましてねえ。口座開設をしていない飛び入りのお客さんが大量の小麦粉を仕入れていったって聞きましてね。」
「あぁ、ジャムさんの事かな?」
「ジャムさん?」
「そう、ジャムさん。なんでもパン工場を経営してるみたいでね。沢山の小麦粉が必要だからってうちの組合の者から買い付けてたみたいだよ。たしか今は牧野さんの所からずっと仕入れてるはずだから話聞いてみようか。」
「いやー助かります。お手数をお掛けしてすいません。」
「いいっていいって。それよりなんでジャムさんを探してるの?知り合い?」
「いえ、パン食人の業界でジャムさんは有名なんでね。お話を聞きたいと思って。」
「そうなんだ。待ってな、今連絡先とか聞いてみるから。」
さすが役員だけあって業界における情報を一元的に把握していた。その不審者はジャム・キッシンジャーと名乗っているらしい。買い付けた小麦粉をM72星雲にあるどこかの惑星に運んでいることやその他ヤツに関わる些細な情報も手にいれることができた。
「戻ったぞ葉月。ちょと気になる情報を仕入れてきた。ん、どうした?」
「こんにちは。」
「お、お前は!?この前の女!?どうしてここに・・・葉月!どういうことだ?」
「それが、オナニーボーイ様に話があると。」
「なに・・・まあ良いだろう。それで、話というのは?」
応接間の真ん中に取り付けられているソファーに座り、コーヒーを飲んだ。相手のペースに乗らないようにまずは一息つき心を落ち着かせた。
「うちのコーヒーのお味は如何かな?」
「とても美味しいわ。でも少し酸味が強いかしら。」
「コナは口に合わないか。ブルーマウンテンの方が良かったかな?」
「いえ、コーヒーご馳走さま。それでは本題に入りましょう。あなた達は最近キナコパンマンについて色々探っているようね。」
「それが何か?」
「単刀直入に言うわ。彼を詮索するのは辞めて。」
「何故だ?ヤツは俺達の商売の邪魔をした。狙われるのは当然だろう。」
「彼を探し出してどうするの?」
「決まっているだろう・・・ギルドに逆らった者は死あるのみ。抹殺しなくてはならない。」
「あなたでは彼に勝てないわ。この前も私が止めなかったらあなたは死んでいたわ。」
「口の聞き方には気をつけろよ。俺の一言でお前をスペースデブリにすることだって出来るんだぞ。まあ良い。たしかにあのまま闘いを続けていたら死んでいた。だが今度は簡単にはやられん。見ての通り俺はサイボーグだ。ヤツの攻撃に耐えるため、オナニウム合金の体に改造した。出力も25%あがった。今度は負けないさ。」
「どうしても辞めてもらえないの?」
「無論だ。それよりも自分の心配をしたらどうだ?ヤツをここに連れてくればお前の命だけは助けてやるぞ。」
「・・・・・・・」
「ふん、まあいい。今度はお前達の事を聞かせてもらおうか。」
「・・・巴。私の名前は巴よ。」
「巴か、良い名前だ。それで、お前達は一体何なんだ。海賊ギルドを敵に回してどうするつもりだ?」
「キナコパンマンはギルドを崩壊させるのが目的よ。そして私は、大事なものを取り戻すために・・・」
「ギルドを潰すか・・・馬鹿も休み休み言え。大幹部の一人を始末して調子に乗っているのだろうが、ギルドはもうお前らを的にかけている。それに、もうあのような桶狭間の状況にはならん。ギルドの防衛体制も強化された。もうお前達に逃げる道は無い。」
「ご忠告ありがとう。でもね、それでも彼も私も止まらないわ。」
「フッ、好きにしろ。今日の所は見逃してやる。帰ってヤツに伝えろ。お前の首は俺が貰うとな。」
「・・・伝えるわ。」
言い終えると巴と名乗った女は転移装置のようなものでまた一瞬にして消えた。まあ何者だろうとギルドのターゲットになってしまったら逃げ切ることなど不可能だ。早かれ遅かれ奴らはスペースデブリにされるだけだ。銀河警察でさえ恐れて手が出せない組織だ。そんな相手になぜ立ち向かうのか。度しがたい馬鹿共だ。
「オナニーボーイ様、如何なさいました?」
「・・・大丈夫だ。そろそろ時間だな。本部に向かうぞ。」
なぜ俺はこんなに腹が立っているのだろう。ヤツらの馬鹿さ加減にか?いや、誰が死のうと俺には関係ない。なのに、なぜこんなに苛つくんだ・・・理解に苦しむ感情を胸の内に秘め、俺は本部に向かった。