トードウォリアーの群れ
軍艦の船体には、カエル型のヒューマノイドが張り付き、のどを風船のように大きくふくらませ、「@@@」を合唱している。たった今まで気がつかなかったのは、砲塔やミサイル発射筒といった突起物の陰に隠れていたり、ブリッジの内部に潜んでいたりしたからだろう。
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トードウォリアーの声が、黒っぽくよどんだ湖面に鳴り響く。先頭の舟にいるナスル殿下は、大きな声を上げて何か叫んでいるようだけど、「@@@」にかき消されて、わたしのいる舟までは聞こえてこない。
ザリーフは色を失って、大きなメガネを落っことし、
「あわわわわ……」
と、まるで頼りにならない。学者だから無理もないだろう。ちなみにアンジェラは、わたしの背後に隠れ、背中から顔だけを出し、じっと様子をうかがっている。ザリーフに比べれば、幾分、肝が据わっているようだ。
トードウォリアーたちは、手足の吸盤を使って軍艦の船体に張り付き、高みからわたしたちを見下ろしている。しかし、直ちに攻撃に移ろうという気配はない。よく見ると、トードウォリアーの数は、それほど多くなさそうだ。ざっと見積もって、30~50人(匹?)くらいだろう。
わたしはプチドラを抱き上げ、
「いよいよ来るべき時が来たみたいね。プチドラ、軽く、やっつけちゃって」
「えっ? いきなりだけど、いいのかな。場合によっては交渉の余地があるかも……」
「この期に及んで交渉は無理でしょ。少なくとも、ナスル殿下には、話し合う気はないみたいよ」
ナスル殿下は片手でショートソードを振り回し、もう一方の手でトードウォリアーを指さして、しきりに何かを叫んでいる。見下ろされるのが気に入らないようだ。しかし、飛び道具を持ってこなかったのだろう、激しく部下と言葉を交わしているが、単にそれだけでは、どうにもならない。
でも、飛び道具と言えば…… わたしは(ふと、思い出したように……ではなく、実際に思い出し)、船底に積まれていた荷物をかき分け、伝説のエルブンボウが入った袋を取り出した。
「久々に、腕前を披露しようかしら……」
ところが、その時、突然、
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トードウォリアーたちは、声を上げるのを止め、次々と湖に飛び込んでいった。そして、わたしたちに背を向け、後をも見ずに、わたしたちから遠ざかっていく。一体、どうして?




