湖の巨大遺跡
黒っぽい湖面からは、巨大な箱状(あるいは筒状)の固まりが幾つも突き出していた。その表面には、直方体や円柱その他諸々の(相対的に)小さな固まりが付着している。
「これは一体???」
アンジェラは目を白黒させ、その巨大な固まりを見上げた。ザリーフも、ずり落ちそうな大きなメガネを何度も押し上げ、口を小刻みに震わせている(しかし、言葉は出てこない)。リザードマンの精鋭たちは、余程驚いたのか、ナスル殿下の命令を待つことなく、呆然として舟を漕ぐのを止めた。
この世界の住民には分からないだろう。湖面から突き出しているのは、錆び付いていて識別しにくいが、軍艦の船体に違いない。その船体は、はるか昔、とてつもなく大きな巨人に持ち上げられ、満身の力を込めて湖底に突き立てられたみたいな格好で、ほぼ垂直に空を向き、湖面からは船体の3分の1程度が顔を出している。両舷に並んだ円柱状の構造物は、ミサイル発射筒だろうか。
わたしはプチドラを抱き上げ、
「あなたには、これが何か、分かる?」
プチドラは、プルプルと首を左右に振り、
「詳しいことは分からないけど、この前に話した『古代遺跡』かな。でも、それにしても大きいね。ビックリした……」
もう一度プチドラは、体をのけぞらせるようにして、その固まり(軍艦の船体)を見上げた。
わたしたちが舟の中から、湖面から突き出した軍艦の船体(と思しき固まり)を前に、ただただ驚きながら佇んでいると、
@@@……………………… @@@……………………… @@@………………………
どこからともなく、例によっての「@@@」が聞こえてきた。気がつかなかったけど、いつの間にか(この湖に入る前か、入った後かは覚えていないが)、「@@@」は止んでいたらしい。
ナスル殿下は、しばらくの間、トードウォリアーの声をBGMに、ぼんやりと軍艦の船体を眺めていたが、やがて、ハッとしたように我に返り、大きな声で短く命令を下した。すると、リザードマンの精鋭たちは、一応、手に手に武器を握り、臨戦態勢を整える。
ザリーフは、舟の中で「よいしょ」と腰を下ろし、
「また、あいつらかい。今度も、声だけちゃうか?」
しかし、その時、アンジェラが軍艦の船体を指さし、「ひぃ!」と悲鳴を上げた。その方向を見ると、今までどこにかくれていたのか、大きくない黒っぽい影が、多数、船体に張り付き、不気味にうごめいていた。カエルっぽい大きな目が光っている。トードウォリアーだろう。今までは「@@@」がうるさいだけだったけど、今回は、それだけでは済まなさそうな雰囲気。




