密林を抜けると
わたしは、プチドラの耳に口を近づけ、
「分からない? 隻眼の黒龍モードで、この辺り一帯を、何もかも焼き尽くすのよ。一面焼け野原になれば、きっと、見晴らしもよくなるわ」
すると、プチドラは「えっ」と驚いて、
「そんな無茶な! ボクの体力にも限度があるし、この辺り一帯を焼き尽くすなんて無理だよ。それに、風向きや火勢によっては、マスターも危険にさらされることになるよ。自然保護の観点からも、却下!!」
と、小さな手を交差させ、×マークを作った。どうやら、あっさりとダメ出しされてしまったようだ。
@@@……………………… @@@……………………… @@@………………………
密林には、相変わらず「@@@」が鳴り響いている。気にしないように努めているけど、そうすると、かえって気になるのは、なぜだろう。
「まったく…… 焼き尽くす意外に、ヤツらを黙らせる方法は、ないかしら」
「さあ、どうかな。何か良い方法は……」
プチドラは小さな腕を組み、「う~ん」と首をひねった。ただ、実際には、(ジェスチャーだけで)何も考えていないのかもしれないが……
わたしたちは、密林をさらに奥へと進んでいった。ここまで来たら、とにかく、行き着くところまで行くしかない。それにつけても、いい加減にしてほしい「@@@」のやかましさよ。ナスル殿下もリザードマンたちも、「うるさい」などと口に出すのも億劫になっているのか、何も言わず、手で耳を押さえている。
やがて、舟が進む川の先に、アーチ型をした白っぽい光が見えた。丁度、トンネルの出口付近に差しかかったようだ。その先に何があるのか知らないが、とりあえずは、この鬱陶しい密林を抜けることができそうだ。そう思えば、多少は気分が晴れるというもの。
ナスル殿下は立ち上がり、大声を張り上げて合図を送った。リザードマンの精鋭からは、(元気いっぱいとは言いがたいものの)ウォーと歓声が上がる。舟は速度を速めた。
そして、密林を抜けると……
「ええっ!? なんや、これはぁ!!!」
ザリーフが立ち上がり、頓狂な声を上げた。彼の傍らでは、アンジェラがあんぐりと、大きく口を開けている。
密林から出た先には、いきなり、湖が広がっていた。背後には、わたしたちが出てきたばかりの密林が広がっているが、そのほかは、一面、水、水、水!!! 遠くの方はモヤがかかっているので、どれくらいの広さかは分からないが、あえて稚拙に表現すれば、「ものすご~く」広いと思う(本当に、海かと見紛うくらいに……)。
しかし、ザリーフやアンジェラを驚かせたのは、その広さではなかった。




