結論は「分からない」
やがて、看板を調べていたリザードマンが、両腕で大きくマルの字を作った。安全確認(周囲にトードウォリアーが潜んでいたり、看板に罠が仕掛けられていたりするかもしれないので)が終わったのだろう。
それを見て、ナスル殿下は舟を降り、看板に近寄った。わたしたちも舟を降り、ゾロゾロと殿下に続く。
看板は、傍目から見た感じ、それほど古くに設置されたものではなさそうだった。木の色は変色していないし、書かれている「@@@→→→」もクッキリと見える。
ナスル殿下は腕を組んで、じっと看板をのぞき込んでいたが、そのうちにザリーフを呼び、何か話しかけた。ザリーフは話を聞いてウンウンと何度かうなずき、ナスル殿下に促され、看板に顔を近づける。二人で、一体、なんの話をしているだろう。
しばらくすると、話が終わったのか、ザリーフがわたしとアンジェラのところに戻ってきて、
「いや~、分からんな。サッパリや。どないしょ……」
いつもながら、このリザードマンの話は「分からん」が多いような気がするが、
「『分からん』というと…… 何が、どのように分からないのですか?」
「殿下に呼ばれて、看板に顔近づけてみたら、まだ、ちょっと、木の匂いしてたんや」
わたし的には「匂い」ではなく「香り」と言ってほしいところだけど、それはさておき、看板から木の香りが漂ってきたということは、この看板は、それほど古くないどころか、つい最近設置されたという可能性も……
「ということは、看板は、まだ新しいのですか」
「そうや。ほんで、ナスル殿下が『なんでやろ』と不思議に思てな。看板は、まだ新しのに、さっき見たときに、草で覆われてもてたやろ。なんか、おかしいと、思えへん?」
確かに、看板が設置されて早々、周囲をこんもりと草で覆われることは、通常、有り得ないような気がする。この辺りの植物の成長が異常に早いなら、話は別だけど……
「それだけちゃうねん。『そもそも、なんで、こんなとこに看板立てるんやろなぁ』て、殿下が言い出してな……」
この辺りがトードウォリアーのホームグラウンドなら、理屈っぽく考えれば、彼らには、どこに何があるか分かっているはずで、ここに道案内の看板を設置する意味は乏しい。旅人が訪れることも、ほとんどないだろうから(のみならず、特大ヒルを落とされたり巨大肉食恐竜をけしかけられたりして、ここに来るまでに命を失っているかもしれない)、旅人向けでもない。ならば、どうして、こんなところに看板があるのか。
ザリーフは、ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げて「ふぅ~」と息を吐き出し、
「殿下から、『なんでや、なんでや』言われてな、ほんま、えらい往生したわ……」
「それで、結局のところは、『なんで』なんですか? 答えは見つかったのですか??」
「そやから、さっきゆうたやろ。『分からん』て……」
やはり、結論としては、「分からない」らしい。




