謎の金属板
舟はわたしたちを乗せ、ゆっくりと動き出した。リザードマンたちは大きな声で、何やら言い合っている。戦車の残骸は、彼らにとって、かなりのインパクトがあったらしい。もし、あの戦車が稼働状態にあって、実際に動き出したとすれば、本当に大変な(言葉では表現できないくらいの)騒ぎになるだろう。
やがて、舟は密林の中に開いた草地を通り抜け、よどんだ水の上をすべるようにして、再び密林の中に入っていった。せっかく開けたところに出ていたのに、これからまた、薄暗い密林の中を進まなければならないと思うと、なんだか気分が滅入る。わたしは舟の中で頬杖をつき、「ふぅ」と小さくため息。
ところが、しばらく進んだところで、
「お姉様、また……」
アンジェラが立ち上がり、前方を指さした。見ると、トンネルの出口付近に差しかかったような、白っぽい光のアーチが見えた。三度目となると、あまりぞっとしないが、その先には、今度は何があるのだろう。池だろうか、草地だろうか、あるいは万が一くらいの確率で、別の世界へとつながる扉のようなものが……
密林を出ると、そこには、先程と同じような草地が広がっていた。大きさも同じくらいで、半径100メートル程度。ほぼ円形の草地の真ん中を、ゆっくりとした川の流れが走っている。
「またかいな…… さっきと同じような景色やなぁ」
ザリーフは額に手をやり、周囲を見回していたが、そのうち、何かに気付いたのか、
「え~っと…… あの三角形の板みたいなの、なんやろ」
ザリーフが指さした先には、大きな三角形の金属板らしいものが、地面に突き刺さっていた。金属板は錆び付いて、赤茶けた色をしている。舟がその前を通ると、リザードマンたちも一斉に顔を向け、指を差したり、口々にあれこれ言い合ったりしている。
アンジェラは、「う~ん」と唸り声を上げながら、錆び付いた三角形の金属板を見つめ、
「これは一体…… 何かの記念碑かしら?」
「さぁ~、記念碑かなぁ…… それか、なんぞの目印に、地面に刺していったんかなぁ……」
そう言って、ザリーフは、ずり落ちそうな大きなメガネをかけ直した。
わたしは金属板をじっと見つめた。ファンタジー世界の住人には分からないだろうが、この板は、多分、戦闘機の主翼(デルタ翼と思われる)の部分。錆び付いていて分かりにくいが、フラップらしいものが見える。何十年も前に空中戦が行われ、撃破された戦闘機の翼が落下し、うまい具合に地面に突き刺さったのだろうか。
ナスル殿下は、今回は舟を停めようとしなかった。「調べても分からないだろうから、こんなところで無駄に時間を費やすことはない」という判断だろう。金属板の背後に何者かが隠れていて、わたしたちを狙っているような気配もない。舟は、よどんだ水の上を、ゆっくりと進んでいった。




