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ザ☆旅行記Ⅸ 南方探検記  作者: 小宮登志子
第11章 謎の「古代遺跡」
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戦車の残骸

 ナスル殿下は舟を停止させ、岸辺に降り立った。リザードマンの精鋭たちも(元気な者は)、殿下に続く。

「&♭、◎∽◆」

 殿下が短く命令を下すと、精鋭たちはサッと散らばり、適当な距離を置いて、その戦車の残骸を取り囲んだ。このところ、ずっと陰々滅々とした雰囲気が続いていたのに、さすがは精鋭。すぐにスイッチを入れ直したのだろう、彼らはキリッとした精悍な顔つきに戻っていた。

 ナスル殿下とリザードマンの精鋭は、遠巻きに戦車の残骸を囲んだまま、しばらく待った。しかし、何も変わったことは起こらなかった。そこで、精鋭のひとりが戦車の残骸に近づき、最初のうちは小石を拾ってぶつけてみたり、棒で突っついたりしながら、慎重にその残骸を調べ、安全性を確認。そして、最後に戦車の残骸によじ登り、開いたハッチから中をのぞきこみ、両腕で大きくマルの字を作った。安全のサインだろう。

 ナスル殿下とリザードマンの精鋭たちは顔を見合わせ、戦車の残骸に近づいていく。ザリーフも、精鋭のすぐ後に続いた。

「なんやろなぁ…… こんなけったいなもん、初めて見るわぁ」

 やはりファンタジー世界の住人には、近代兵器の概念はないようだ。

 なお、アンジェラも、ザリーフの陰に隠れるようにして恐る恐る戦車の残骸に近づき、不思議そうに、その不思議な物体に見入っていた。


 でも、一体どうして、こんなところに主力戦車の残骸があるのだろう。この世界でも、はるか昔に戦車と戦車の戦闘が行われたのだろうか。そうであれば、なぜ、剣と魔法が支配する中世風の世界に文明が退行しているのだろうか。

 あるいは、帝国が勃興し、今の文明が栄える前に、失われた古代文明が栄えていたのかもしれない。古代文明は高度な科学力を持ちながら、その科学力ゆえに、すなわち、戦車が戦場を駆けめぐり、戦闘機が上空を飛び交い、核ミサイルが都市を灰燼に帰すという大戦争により、滅亡してしまったのだろうか。


 草地には、この戦車の残骸の他に、やや大きな、錆びついた金属片がいくつも散らばっていた。砲身や転輪の残骸のように見える。この戦車以外にも、戦車(あるいは、その残骸)はあったのだろう。この一両だけが、どうにか原型を留めていたようだ。

 リザードマンたちは、戦車の残骸を間近で取り囲み、口々に何かを言い合っていた。意味は分からないが、この異様な物体の正体について、あれこれ想像を巡らせているのだろう。

 しかし、やがて、ナスル殿下は戦車の残骸から離れ、大きくひと声、

「∽&∑、∬♂◆††#!!!」

 すると、リザードマンの精鋭も同じく、一斉に戦車の残骸を離れ、各々の舟に戻っていった。なんだか分からないものをいつまでも眺めていても仕方がないので、とりあえず先を急ごうということだろう。アンジェラとザリーフは、その正体が気になるのか、何度も後ろを振り返り、しきりに首をひねりながら、舟に戻っていった。

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