毎度おなじみの
帰り道、馬車の中でプチドラはわたしを見上げ、
「マスター、長いこと帝国宰相を捜し回っていた割には、あっさりと引き揚げてきたね」
「イヤな予感がしてね。帝国宰相のことだから、わたしを見た瞬間、何かロクでもないことを思いついたのよ。間違いないわ」
「ロクでもないことというと、例えば、優しい態度でマスターを油断させて、極秘任務でゴールデンフロッグ探しを手伝わせる方向に話を持って行くとか?」
「多分、そんなところでしょ。今のところ、帝国宰相の援助は必要ないし、恩を売るにしても、もっと楽な方法があるはずだから、詰まるところ、『君子危うきに近寄らず』かしら」
ゴールデンフラッグだかゴールデンフロッグだか……、なんでもいいけど、そんな怪しげなものの捜索を押しつけられてはかなわない。イヤな爺さんだけど、頭の切れる帝国宰相のことだ。ニューバーグ男爵だけを残してツンドラ候とわたしが姿を消したという話は、当然、宰相の耳にも入っているはず。わたしの姿を見た瞬間、この事件にわたしが関与していることを察知したのではないか(あるいは、以前からわたしを怪しいとにらみ、わたしと会う機会を待っていたとか)。証拠は残していないはずだけど、用心に越したことはない。しばらくの間、宰相とは極力会わないことにしよう。
「それはそれとして…… でも、やっぱり気になるわ、その、ゴールデンフロッグ……」
「ボクにはよく分からないけど、ガイウスやクラウディアなら、何か情報をつかんでいるかもね」
ガイウスたちなら、普段の諜報活動により、役に立ちそうな情報を仕入れているだろう。でも、少し気がかりなのは、ガイウスたちが、この前、「ツンドラ候の△△△をブライアンの○○○に激しく×××」を見せられたこと。精神的な理由で調子を落としていなければいいけど……
「でも、屋敷に戻る前に、帝都の名物を拝ませてもらいましょうか」
わたしが御者に指示を送ると、馬車は方向を変え、市街地に向かって進んだ。行き先は、久しぶりだけど、帝都の公園。きっと、例の老人、すなわち「神がかり行者」が、無駄に声を張り上げて体力を消費しているだろう。
果して、その公園では……
「ウソ偽りの大海に沈み、腐臭を放っている一般大衆諸君! 世はなべて虚飾に満ち、真実の光は悪意に満ちた黒い雲に覆われている!!」
ボロボロの衣服を身にまとい、白髪を振り乱した老人が、大声でわめいていた。
「真実の光は、誰でも見える、しかし、誰も見ようとしない! 見ようとしない者は、タダの怠け者、みじめな安逸を貪るブタに過ぎない!! ブタ、ブタ、ブタ、ブタ、ブタ、恥を知れ!!!」
相変わらずのようだ。わたしは馬車の窓を開け、神がかり行者を眺めていた。しばらくすると、そのことに気付いたのか、神がかり行者は馬車を指さして一段と声を張り上げ、
「そのブタの中でも、最低最悪のブタが、そこにいる!!!」
やっぱり、絡んできたか。期待を裏切らない爺さんだ。