赤茶けた箱みたいなの
わたしたちは、密林をさらに奥地へと進んでいった。周囲の景色は、これまでと変わらない。繰り返しになるので、いちいち描写するのは止そう。ただし、雰囲気は、これまで以上に悪化していた。誰もが黙ったままで、ひと言も口をきこうとしない。うっかり言葉を発すれば(理由もなく)ボコボコにされるのではないかと、恐ろしくなってくるくらい。なお、毒矢で負傷したリザードマンの病状は、良くなっているとも言えず、悪くなっているとも言えず、早い話、変化なしといったところ。
また、このところはなぜか、カエルのようなトードウォリアーの声(「@@@」)も聞こえてこなくなった。リザードマンの精鋭の約半数が戦闘不能となった今、わたしたちを「それほどの驚異ではない」と見て、相手にするのを止めたのだろうか。それとも、どこからかわたしたちを監視していて、とどめを刺す機会をうかがっているのだろうか。ともあれ、気味の悪いことに違いはない。
そして、何日かが過ぎた(と思う。というのは、時間の感覚が完全におかしくなっていて、冗談ではなしに、夜と昼の区別もつかないくらいだから)。この日もわたしたちは、まるで死者のように、言葉を一切発することなく、密林の中に舟を進めていった。
やがて、船が進む先に、ぽっかりとアーチ型に開いた白っぽい光が見えた。丁度、トンネルの出口付近に差しかかったような光景。確か、以前にも、こんなことがあった。その光の先には大きな池があり、その池の岸辺では3頭の巨大肉食恐竜がまどろんでいた。その時は、ナスル殿下の指揮とリザードマンの精鋭の活躍により、巨大肉食恐竜を軽く片付けることができた。今回は、一体、何が待ちかまえているのだろうか。
舟は、ややスピードを上げた。先に何があるのか分からないが、とりあえず、陰鬱な密林の中でいるよりは幾分マシだと思う。舟が光のアーチをくぐると、
「あっ!!!」
と、(久しぶりに)声を上げたのは、アンジェラだった。密林の中に、半径100メートル程度の、ほぼ円形の草地が広がっていた(その真ん中を、非常にゆっくりと、川の流れが走っている)。
しかし、アンジェラが驚いたのは、その草地に対してではなかった。
「あの赤茶けた箱みたいなの、何かしら……」
アンジェラはザリーフを見上げた。
ザリーフは、ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げ、目をこらしたが……
「あれは…… あ~っと…… なんやろ???」
と、その正体はザリーフにも分からないらしい。彼は腕を組み、考え込んでしまった。
その「赤茶けた箱みたいなの」とは、錆び付いた直方体の箱と、同様に錆び付いたおわん型の箱を組み合わせ、おわん型の箱から丸い筒状のものが飛び出したもの。早い話が(こちらの世界の話として言えば)、何十年も前に撃破され、錆び付いた主力戦車の残骸。アンジェラやザリーフが分からないのも無理はないが、どうしてファンタジーの世界に近代兵器、しかも、その残骸があるのだろう。




