当初の見立てとは違って
ザリーフは、ぼんやりとしている意識をハッキリさせるためか、川の水をすくい上げ、顔を洗った。そして、ずり落ちそうな大きなメガネをかけ直すと、大きなため息をつき、
「大丈夫やろか…… あんまり大丈夫みたいな感じはせんけどな……」
と、なぜか関西弁で独り言。倒れているリザードマンの脈を順番に取ると、「ハァ~~」と、さらに大きなため息をついた。
ナスル殿下がうつむき加減に話しかけると、ザリーフは「うーん」と首を振り、身振り手振りを交えて説明を始めた。ナスル殿下は何やら難しい顔をして話を聴いていたが、やがて、ザリーフの話が終わると、難しい顔を一層難しくして、腕を組んだ。一体、どんな話だったのだろう。
ザリーフは、話を終えてこちらに戻ると、
「いやぁ、まあ、難し状況やな。なんちゅうか、その、説明も、なんやなあ……」
「なんとなく難しそうなことは想像がつきますが、具体的には、何がどうなってるのでしょうか」
「そらぁ……、何がどうなってるか分かってたら、なんも難しこと、ないでぇ」
確かに、その通りではあるけど……
ともあれ、ザリーフの話によれば、一応、倒れているリザードマンの命に別状はなさそうだとのこと。しかし、毒の影響で、当分の間はまともに動けないだろうから、戦力としては当てにできないらしい。薬草を煎じて飲ませれば、(ゲームのように即リフレッシュとはいかなくても)なんとかなりそうだけど、どんな薬草が効くか分からないので、手の打ちようがないらしい。
こうなると、頼りはプチドラの魔法で治療できるかと…… しかし、プチドラは「ダメダメ」というように首を振った。治癒魔法は「専門外」らしい。
岸辺では、ナスル殿下が数人の部下と話をしていた。意味は分からないが、声の大きさや語調からすると、何やらもめているようだ。
「☆√⊿〆、◇≡∀‡▲◎¶¶£、〓∀■*Ω※◇、§&@≪&★※Ω」
時折ナスル殿下は、怒気を含んだような、大きい声を上げている。
ザリーフは殿下を横目で見ながら、ほおづえをつき、
「やっぱり、みんな、帰りたなってきたんやろなぁ……」
「『帰りたい』ですか?」
「そうや。みんな、もっと簡単にいくと思てたんやろ。あっさりとトードウォリアーの領域を制圧して英雄になるはずが、特大ヒル、巨大肉食恐竜に続いて、今度は毒矢やろ。被害者も出てもたしなぁ……」
部下たちは、みんな、ハッドゥの町に帰ろうと進言しているらしい。しかし、ナスル殿下だけは反対で、「俺の舟に傷を付けたカエルどもを許すわけにはいかん。皆殺しにしてやる」と怒り心頭とのこと。殿下の気持ちは分からなくはないが、一般論としては、部下の意見が正しいような気がする。そもそも、最初にもっと綿密な計画を立て、しっかりと準備を整えておけば、こんなことにはならなかったはずだ。トードウォリアーを甘く見ていたツケが、ようやく回ってきたということか。




