今回も待ちぼうけ
ナスル殿下はショートソードを構え、周囲を見回した。リザードマンの精鋭も、戦闘態勢を整える。しかし、その半数は倒れたままだ。アンジェラは先程から、わたしにしがみついている。なお、プチドラは耳をピンと立て、慎重に周囲の様子をうかがっているが、表情からは、あまり危機感は感じられない。ドラゴンにとっては、トードウォリアーが何十匹襲ってこようと、ものの数ではないのだろう。それを見て、わたしも少し安心。
@@@……………………… @@@……………………… @@@………………………
密林の奥からは、相変わらずトードウォリアーの声が響いている。しかし、姿は見えない。プチドラは、「うーん」と小さな首をかしげて小さい腕を組み、
「おかしいなぁ……」
「どうしたの? 『おかしい』って、何が?」
「カエルさんたちが近くにいる気配はあるんだ。攻撃するなら、今がチャンスなのに……」
トードウォリアーは、プチドラの正体が隻眼の黒龍であることを知らないはず。ならば、リザードマンの半数がダウンして病人のようになっている今、総攻撃を掛けるのが、正しい判断だろう。しかし、プチドラによれば、その気配は全然ないらしい。
ナスル殿下は自らを奮い立たせるように大きな声を出し、てきぱきと指示を出していた。舟を岸に着け、病人を真ん中に集め(わたしとアンジェラとザリーフも含む。わたしたち3人は戦闘能力ゼロと判断されたのだろう)、彼らを守るように周囲に精鋭を配置した。
@@@……………………… @@@……………………… @@@………………………
@@@……………………… @@@……………………… @@@………………………
気のせいかもしれないが、トードウォリアーの声が少しずつ大きくなってきたようだ。アンジェラは耳を押さえた。周囲にトードウォリアーの戦闘員が集まってきているのだろう。絶対に負けないと確信できるくらいの数が揃ったところで、一気に攻勢に出るつもりだろうか。
わたしたちは、そのままの態勢で、長い時間(おそらくは一昼夜)、待った。
ところが……
結果的には、今回も、待ちぼうけを食わされただけだった。アンジェラは、わたしにもたれ掛かり、ぐっすりと眠っている。もちろん、わたしも寝不足でフラフラだ。ナスル殿下も不機嫌に何やらブツブツとつぶやいている。
こうなると(こうなる前からもだけど)、倒れているリザードマンの病状が気がかりだ。毒が体中に回ると、最悪の場合は……
とにかく、非常にまずい状況に変わりはない。




