理知的な作戦
倒れたのは、そのひとりだけではなかった。舟の上では、リザードマンの精鋭が口から泡を吹き、次々と倒れていった。
これには、ナスル殿下もなすすべなく、
「◇&〆≡、〆#√¶¶⊿□*⊆⊥Ň∥◎£!!!」
と、意味不明なことを言いながら、苛立たしげに周囲を見回すばかり。
ザリーフは、ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げ、舟の上で立ち上がると、
「こら、あかんわぁ。さっきの矢に毒でも塗ってたんちゃうやろか。ヤバイわ。どないしょ……」
おそらく、常識的にはその線だろう。木の上から毒矢を雨のように降らせ、仮に矢が急所に命中しなくても、毒の効果で命を奪うことができる。嫌らしいけど、なかなか理知的な作戦ではないか。
トードウォリアーは、(リザードマンたちが認めようが認めないが)こういった頭脳戦に関しては、それなりに強敵であることは間違いないと思う。加えて、彼らには、地の利もある。この辺りは、わたしたちにとっては未開の秘境でも、トードウォリアーにとっては、勝手知ったる自分の庭のようなものだろう。
「お姉様、あの、これは……」
アンジェラは、泣きそうな目でわたしを見上げた。
「大丈夫よ。少なくとも、わたしとあなたに限ればね……」
場合によっては、アンジェラを連れて隻眼の黒龍の背中に乗り、わたしたち二人だけでも脱出することにしよう。こう考えれば、退路が確保できているという意味で、多少、気が楽ではある。
泡を吹いて倒れたのは、リザードマンの精鋭の半分近くの14名に上っていた。ナスル殿下の命令で、とりあえず舟を岸に着ける。ザリーフは、倒れたリザードマンを一人一人診ると、「う~ん」と首をひねりながら、ナスル殿下に何事か報告。すると、殿下も難しい顔で腕を組んだ。
ひととおり、ナスル殿下との話が終わると、ザリーフは、わたしたちのところに戻り、
「あかんわぁ。サッパリ分からんでぇ」
「あきまへんか」
「あかんわぁ……」
ザリーフの声は沈んでいた。倒れた者の体から例外なく矢傷が発見されたことから、合理的には、矢に毒を塗っていたことが推察できる。しかし、どのような毒が塗ってあったかは分からないので、手の打ちようがないらしい。
倒れたリザードマンたちは、ハァハァと苦しそうに、荒い息を立てている。ナスル殿下も心配そうに彼らを見回しているが、どうにもならない。
そのとき、密林の奥からは、わたしたちをあざ笑うかのように、
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