@@@
そんなこんなで、わたしたちの、ある意味、楽しい旅は続いた。茶色く濁った水、両岸に生い茂る木々、やる気なさそうに寝そべっているワニなど、同じような光景が続く割には飽きが来ない。ナスル殿下の下手な歌は相変わらず。また、アンジェラも、よく、そんなに次から次へと質問が沸いてくるものだと感心するくらいに、質問魔になってザリーフを困らせている。わたしとは頭の出来が違うのかもしれない。
今のところ問題点があるとすれば、ひとつ……、ただ、これは致命的と言えるかもしれないが、
「あ~っ、痛!」
「あら、プチドラ、今日も噛まれたの?」
プチドラでもかなわないヤブ蚊の襲撃は、前評判どおりだった。
そして、この日も同じように、南の大河に注ぎ込む支流をさかのぼり、これから楽しい夕食の時間……のはずだった。ところが……
@@@……………………… @@@……………………… @@@………………………
あまり大きくはないが、カエルの鳴き声のような声が響いた。よく聞こえるように、耳に手を当てて神経を集中していると、突然、ナスル殿下がショートソードを抜いて立ち上がり、
「∴☆≡⊿¶¶*∮£!!!」
すると、リザードマン30人の精鋭も、同様に、直ちに立ち上がり、武器を持って戦闘態勢を整えた。何事が起こったのだろう。アンジェラは、わたしの腕にしがみついた。
ザリーフは中腰になって、大きなメガネを押し上げながら、油断なく周囲を見回し、
「出た、出た、出たでぇ~。こらぁ、エライこっちゃかも分からんなあ」
「また『エライ』ですか。それで、今度の『エライ』は、なんですか?」
「カエルや。この鳴き声は、トードウォリアーや。つまりやな、だんだんと、トードウォリアーの領域に近づいとるっちゅうこっちゃ」
ハッドゥの町を出てから何日も経っている。ならば、もうそろそろ、トードウォリアーに遭遇してもおかしくはないだろう。ただ、この前には「醜くて愚かな」とか言って、思い切り蔑んでいた割には、この警戒態勢は、少しばかり厳重に過ぎるのではないか。
「そら、『醜くて愚かな』ことは確かやけどな……」
ザリーフも少し歯切れが悪い。これは、わたしの想像だけど、トードウォリアーの身体能力は、意外とバカにできないのではないか。リザードマンたち見て憎たらしい相手だからこそ、殊更に矮小化したくなるということも、あると思う。
しかし、この日は、それっきり、トードウォリアーの声は聞こえなくなった。ナスル殿下もすぐに警戒態勢を解き、つまらなそうな顔で、夕食後は早々に就寝。でも、トードウォリアーの意味不明な「@@@」は、これで終わりではないだろう。彼らとは、そのうち、ひと悶着(襲撃等々)あるかもしれない。




