小船に乗ってどこまでも
ハッドゥの町を出たわたしたちは、ちょっとした船団を組み、南の大河に流れ込む支流をさかのぼっていった。支流といっても川幅は比較的広く、流れは非常に緩やか。水は茶色く濁り、川底は見えない。
先頭を進むのはナスル殿下の舟で、その舟のへさきには、羽のある三つ首のトカゲをかたどった独特のシンボルマークが彫刻されている。わたし(プチドラも込み)、アンジェラ、ザリーフは同じ舟に乗り、船団の真ん中で、周囲をリザードマンの舟に囲まれ、護送されるように進んでいった。
「⊿~~☆√~~、⊆∮◎~~▲∥*£~~、〓※≪~\υ∴~~……(以下略)……」
ナスル殿下の舟からは、抑揚をつけた殿下の声が響く。意味は分からないが、歌を歌っているように聞こえないこともない。すなわち……、そのリズムのとり方は、お世辞にもうまいとは言えないということ。
ザリーフは、ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げ、手で耳をふさぐようなジェスチャーをしながら、
「ハッキリゆうたら……、ほんま、耳が腐るわ」
殿下の舟に同乗するリザードマンには気の毒なことだ。
支流の両岸には木々が生い茂っており、この辺りまで来ると、リザードマンでも滅多に来ることはないという。川岸では、ひなたぼっこをしているのか、大きなワニがその体を横たえている。その背中で小鳥が何羽か遊んでいるが、ワニはじっと目を閉じて、小鳥には見向きもしない。町を出る前の話によれば「ワニと格闘」しなければならないはずだが、その話には、多分に誇張が含まれていたらしい。
アンジェラは、ここでも好奇心一杯に、
「あの動物は、なんというのですか? それでは、あれは??」
「あれは、え~っと、河イルカやな。ほんで、あれは……、なんやったっけ……」
ザリーフは矢継早に浴びせられる質問にタジタジの様子。ちなみに、知識の収集という点に関しては、わたしは当てにされていないようだ。
わたしたちは、昼の間は舟で支流をさかのぼり、夜には舟を岸に繋留し、キャンプを張った(なお、寝る前に見張りを立てるのは当然のこととして)。
ディナーでは、その日に獲れた魚がメインディッシュとなり、色とりどりのフルーツが並んだ。ナスル殿下は食事する直前に(「いただきます」みたいな感覚だろうか)、毎度お決まりのパターンとして、拳を突き上げて力強く叫ぶ。
「⊿∴◆¶¶☆〆、⊆∀§*ヾ⊥¶¶¶〆▲○〓Å≒∥◎£々、≪■☆Ω!!!」
ザリーフの翻訳によれば、「我々は前人未踏の偉業を成し遂げようとしているのだ」ということらしい。リザードマン30人の精鋭も調子を合わせ、拳を突き上げて、ウォーと力強く吼える。
ところが、プチドラは、ナスル殿下たちが上機嫌でいるにもかかわらず、なぜか、
「ぶぅ~~~」
と、いつもふてくされていた。お酒が飲めないのが不満らしい。小舟には多くの荷物を積めないので、お酒の類は持って来られなかったとのこと。




