宴が終わり……
しばらくすると、鍋からは、おいしそうなにおいがただよってきた。鍋を囲むリザードマンは、まさにお祭り騒ぎ。ボルテージは最高潮に達しているようだ。ただ、わたしの感覚としては(通常一般人も同じだと思うが)、言葉が通じないとはいえ、独自の言語・文化を持ち、独自の社会を形成しているという、ある意味、知的な種族をバラバラにして食べちゃうのは、いかがなものだろうか。
しかし、ザリーフは涼しい顔をして、
「そんな細かいこと、気にしてたらあかん。食べるもん、なくなってまうで」
「そんなもんですか。では、あなたたちリザードマンにとって、トードウォリアーとは、どのような存在?」
「う~ん、『どのような』て……、難しなぁ。うざいヤツらやとは、思うけどな」
話によれば、トードウォリアーとの交流はまったくと言ってよいほどなく、しかも、100%のリザードマンがトードウォリアーに良い感情を抱いていないと断言できるらしい。それはなぜかと尋ねると、「理由はないけど、なんとなく」とのこと。「帝国の人が、混沌の領域におるゴブリンやオークに嫌悪感抱くのと、おんない理屈ちゃう?」という答えだった(帝国ではゴブリンやオークを食する習慣はないにせよ)。
トードウォリアー肉が煮上がったところで、ナスル殿下がおもむろに鍋に歩み寄り、
「∀∟#¶¶☆∥£⊿√〆♭☆≒!!!」
大きな声を上げ、体をクネクネと動かし、今まで見たことのない踊りを始めた。何かの儀式だろう。ザリーフの解説によれば、トードウォリアーの煮込みを神に捧げて、道中の無事を祈るのであろうとのこと。その儀式が終わると、トードウォリアー肉が小皿に取り分けられ、宴の参加者全員にふるまわれた。ただ、わたし的には、とても食べる気にはならなかったが……
こうして、言わば狂乱の宴は終わった。
翌朝、わたしは、こざっぱりとした小部屋のベッドの上で目を覚ました。隣では、アンジェラが、まだスヤスヤと寝息を立てている。こちらに来てからいろいろなことがあったから、心身ともに疲れているのだろう。
ベッドから出て、窓から外を眺めてみると、ナスル殿下が30人ほどのリザードマンを前に、何やら訓示を垂れている様子。その後ろでは、隻眼の黒龍が大きな体を丸め、いびきを立てている。
しばらくすると、ドアをノックする音がして、
「おはようさん。よう寝られたかな?」
ザリーフが機嫌良く、ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げて、部屋に入ってきた。
すると、その音で目が覚めたのか、アンジェラが体を起こし、
「……はい? もう、朝ですか」
アンジェラは眠そうに目をこすっている。
わたしはアンジェラの頭を軽く撫で、
「朝よ。ナスル殿下は相当やる気になってるわ。わたしたちも、急いで準備しないとね」




