議論の決着
父と子の議論(口論?)は、長い時間、続いた。ザリーフの翻訳によれば、太守ズォヤードが、「昔から危ないと言われているところに、わざわざ出かけていくことはない」と諭しても、ナスル殿下は、「危ない危ないと言って誰も足を踏み入れようとしないから、怪しげな伝説だけが一人歩きするのだ」と、頑として、父親の忠告を聞き入れようとしない。太守ズォヤードが、「いやいや、昔から言われていることには、理由があるに違いない。河豚には毒があるが、それを身をもって確かめようとする者はいないだろう。軽々しく動くべきではない」と、たしなめても、ナスル殿下は、「いや、けっして『軽々しく』ではなく、ほんの数秒間、じっくり熟慮した上でのことだ。ついでにトードウォリアーの領域を征服し、南方に我々の版図を広げるのだ」と、まったく取り合わない。太守ズォヤードは、最後には、「トカゲ王国を開いたサイフッディーン1世でさえ、南方への野心を抱いたことはなかった。そんな大それた望みを抱いては、いずれ、身を滅ぼすぞ」と、ナスル殿下にすがりついたが、殿下は、「ならば、俺は、サイフッディーン1世を超える」と、父をふりほどいた。そして、宴会の喧噪をかき消すほどの大音声で、
「†△¶¶◎∟√!!!」
すると、今まで大騒ぎしていたリザードマンたちは、急に静かになり、ナスル殿下に注目。殿下は満足げにうなずき、拳を振り上げて、言葉を続けた。
「〆†※△∥§¶♭Ω&□∀、⊆ξ℃Å≪■♀υ£∀#∧⊿……(以下略)……」
ザリーフの翻訳によれば、要するに、「トードウォリアーの領域を征服する。歴史的偉業だ。俺に続け!」ということらしい。リザードマンたちは雄叫びを上げ、酔っ払った勢いか、次々に賛意を示した。太守ズォヤードはガックリと肩を落とす。一応、これで、ナスル殿下が配下を引き連れてゴールデンフロッグ探しに加わることが決まったと見てよいだろう。
ナスル殿下は、部下のリザードマンを呼び寄せてヒソヒソと何やら耳打ちし、わたしの方を向いてニヤリ。何かのシグナルのつもりだろうが、一体、なんだろう。
しばらく待っていると、数名のリザードマンが檻車を引っ張ってきた。宴会場で大歓声が上がる。よく見ると、檻車の中にいるのは、上半身がカエルのヒューマノイドが3体。今まで見たことのないタイプだ(正体がなんなのか、なんとなく想像はつくが)。
ザリーフは、ニヤニヤと檻車を眺めながら、
「もうちょっとしたら、始まるでぇ~。血祭りの儀式や」
彼の解説によると、檻車の中にいるのは、トードウォリアー。戦いの前に捕虜を血祭りに上げてイケニエにする風習は、以前に見たような気がするが、どうしてトードウォリアーがこんなところに?
不思議に思っていると、ナスル殿下は、ガハハと豪快に笑いながら説明してくれた。(ザリーフの翻訳によれば)「ごくまれに、醜くて愚かなトードウォリアー数匹の群れが、トードウォリアーの領域を出てはるばると、我々リザードマンの領域の近くまで迷い込んでくる。そいつらを捕獲するか殺害するのも、我々防衛軍の仕事だ」とのこと。




