父と子
ナスル殿下は気持ちよさそうに話をしながら、豪快に、手酌で次々と杯を空にしていく。ザリーフの同時通訳によれば、自分がいかにすごいかを語っているらしい。巨大トカゲをしとめたとか、帝国との戦役で活躍したとか、先刻の隻眼の黒龍との勝負は引き分けだったとか、その他諸々。わたしは適当に愛想笑いを浮かべながら、相槌を打っていたが、やがて、ナスル殿下は杯を置き、
「☆◆※#⊥¶¶¶〆▲≡@〓\£℃〃∮……(以下略)……」
ザリーフの翻訳によれば、「帝国の人よ、あなた方は、どうして、このような辺鄙な町に来られたか」とのこと。先刻、太守ズォヤードに同じことをきかれたばかりだけど、
「実は、トードウォリアーの領域まで、ゴールデンフロッグを探しに行く途中なのです」
このことをザリーフの翻訳で伝えると、いきなりナスル殿下は立ち上がり、
「⊿∴⊥¶¶☆※!!!」
と、なんだか分からないが大声で叫んだ。そして、荒々しくザリーフの肩をたたき、
「⊥▼*^○☆#¶¶仝Ω‡∀≒、ξ□#▽£●♭÷⊆∧∴*Ω、¶&`ヾ⊿%……(以下略)……」
意味は分からないが、太守ズォヤードとは別の反応が返ってきたようだ。ザリーフは、ずり落ちそうなメガネを何度も押し上げ、興奮気味に拳を握りしめ、何度もうなずいている。やがて、ザリーフは、ナスル殿下とガッチリ握手を交わし、わたしとアンジェラの方に向き直った。
「いやぁ、ナスル殿下は話が分かるみたいやな。『面白そうやから、一緒に来る』て、ゆうてるで」
なんと、ナスル殿下もゴールデンフロッグ探しに加わってくれるとは、これは望外。
ところが……
「∀〓▲¶¶☆∮£※!!!」
突然、太守ズォヤードが声を上げた。そして、ナスル殿下のもとに歩み寄り、諭すような調子で、
「〆▲※々●§¶仝Ω&□∟、ξÅ℃≪■¶〓υ◎∀Ё∧≦⊆∴※Ω……(以下略)……」
しかし、ナスル殿下は笑いながら首を振り、太守ズォヤードを押しのけるようにして、
「∀◎¶¶☆∮£、⊥▼*^○♀仝†Ω‡△≒、ξ#√£∥♭÷⊆∀∴Ω、¶&▽……(以下略)……」
意味は分からないが、何やら言い合っているようだ。なんとなく、想像はつく。ズォヤードは、ゴールデンフロッグを探しにトードウォリアーの領域に行こうとするナスル殿下を引き止めようとしているのだろう。
ザリーフは、「やれやれ」といった顔で、ずり落ちそうなメガネを押し上げ、
「やっぱり、親父さんとしては、なかなかOK出せやんやろなぁ」
予想どおり、「トードウォリアーの領域に行きたい」というナスル殿下と、「それだけは止めておけ」とする太守ズォヤードで、言い争いになっているらしい。ズォヤードが「ゴールデンフロッグの怒りに触れ、とてつもなく恐ろしいものに食べられてしまう」と言えば、ナスル殿下は「そんなもの、俺が反対に食ってやる」と返し、なかなか収拾がつかない。しばらくは、このまま見守るしかないだろう。




